六月がきて、冬になった。
移民たちがブラジルに着いてすぐ珈琲もぎに狩りだされ、早朝の寒さに震え上がって指に息を吐きかけた、あの深く印象に残っている季節だった。
六月は聖人たちの月でもある。十三日の聖アントニオから、聖ジョアン(ヨハネ)、聖ペードロと収穫祭が続くのだった
毎日、毎日、雲一つない青空が森の上にあった。日中かなり温度が昇るが、陽が西に傾くと共に地上の温度は一斉に空に昇っていった。冷たい夜気の中で、星は氷のようにきらめいた。
オリオンが頭上に重石のようにのしかかり、サソリ座の赤い星が血走った目のように睨んでいる。あまりに星たちの光度が強いので、南十字星のようにいくらか光の弱い星の方が、眺めていると心が落ち着いた。
星の群れがすぐ近くまで降りて来て、頭が圧し潰されそうに感じる夜もあるのだった。
六月になると、マラリヤはほぼ終焉した。まだ火葬場の煙が立ち昇る日もあったが、マラリヤそのものよりも肝臓や心臓を痛めてついに回復せずに死んだ人々である。
この時期の死者は中年が多かった。池戸リヤの夫、竹次郎。大田長次郎の妻、イト。森島リマの夫、政市。みんな四十代だった。
十九才の山本経治が死んだのは例外といえる。
全滅した家族、働き手を失って仕様なしに移転した家族……平野植民地はほば半数に減ってしまった。しかし今が森を伐る唯一無二の時期だった。伐り倒して充分に乾燥させ、火を放つ。
一度できれいに全焼しないと半焼けの倒木が散乱して後始末だけで半年もかかってしまう十月に最初の雨が降りだす前に森を焼く必要があった。
人々は割り当てられた地区へ移動した。そここそ、自分の土地だった。
あちこちで開拓が進んでいる。ノロエステ線一帯を股にかけた山伐りの請負師たちが活躍していた。斧使いと鉈使いの男たちを配下に従えて、森林の中の飯場を風のように移動する男たちだった。
或る日、そんな請負師の一人のクストリオが馬を乗りつけた。オットーの友人で、黒い髪をした肥った大男で統率力のある評判の請負師だった。入植する時に前もって山伐りを頼んでおいた。素人がコツコツ伐るより、専門家に頼んだ方が仕事が早いから反って安上りなのである。(つづく)