「アイテテテ……」
としびれた手をかかえてしゃがみ込むのだ。
鉈だって長い柄をすげているから、振りまわしているとヘトヘトになる。指を切ったり、睾丸を打ったり、果ては俄かに倒れかかる木に片足をはさまれたり、自前でやるのは楽ではなかった。
半月から一カ月はど乾燥させて、火を放った。
「こんな素晴らしい木を燃してしまって勿体ない」と誰もが思うが、それしか方法はなかった。
組をつくって森を取り囲み、朝露が乾いた十時頃に一斉に火を付ける。
パチパチと音がして、明るい陽光の中にだんだん炎が立ち始める。火が盛んになるとゴウゴウと耳を聾する大音響を立てて森は燃え、大きな竜巻が数カ所で起ってすさまじい火柱が天へ昇った。火柱の高さは四十メートルくらいあった。その囲りに小さな火柱が幾つも立った。煙と黒灰で空はどんよりと曇り、あたりは異様な暗さに包まれる。太陽は真赤な円盤のようになって弱々しい光をたたえている。夜光性の烏たちがギャーギャーと叫び声をあげて飛び廻った。
充分に火が廻ったのを見定めて、地主は酒を加勢者に振舞って労をねぎらう。
森は夜になっても赤々と燃えていた。太い枯木の大木だけが、炎の中に黒々と立っていた。凄い眺めだった。
夜明けになると、細い木はとっくに燃え尽き、大木だけがあちこちに赤いシルエットになって転がっているのだった。
山焼きがすむと、小屋を建てる。見渡すかぎり黒こげの切株が乱立する中にポツンと一軒だけ小屋が建つ。およそ人間の住居でこれほど殺風景な住いはないだろう。
隣人の小屋さえ見えない。全べてのものが死に絶えたような焼け跡である。しかし、注意して足許を見れば、土は新生の息吹きをひそめて広がっているのだった。
山焼きのあとに最初に芽を吹いたのはサマンバイヤ(ワラビ)だった。あれほどの猛火の跡になぜ芽が出るのか信じられないくらいだった。風に乗って胞子が飛んで来たのか?地中深く根が張っていたのだろうか?ワラビは焼跡の地表に小さな緑色の疑問符を無数に突き立てていた。
なぜ?なぜ?
女たちは嬉々としてワラビを摘んだ。手がアクで真黒になるほど摘んだ。オヒタシは故郷の味がする。(つづく)