アルゼンチンのリバタリアン大統領ハビエル・ミレイ氏は、就任当初、その過激で扇動的な言動から「政治家としての資質に欠ける」と見なされ、国内外の多くの人々は彼の統治能力に懐疑的だった。だが、彼はそのイメージを覆し、就任1年目で財政削減やインフレ抑制に一定の成果を上げた。米シンクタンク「ウィルソン・センター」のベンジャミン・ゲダン氏による、ミレイ氏の政治的手腕や今後の課題を評価したコラムを、エスタード紙が12日付(1)で報じた。
ミレイが見誤られた主な理由は、彼の政治経験の不足と、その過激な経済政策に対する国民の懸念にあった。2021年に代議院議員に就任する前、彼は主にテレビコメンテーターとして知られ、過激な発言が目立った。特に自由主義的な政策提案、銃所持自由化や臓器市場解禁などが一部で反発を招き、彼の政策が国の未来を危険にさらすと考える声も多かった。
だが、ミレイ氏の就任後、インフレ率は昨年12月の月間25%から現在の3%未満に低下し、政府は現在、税収よりも支出が少ない。債券価格の指標である「カントリーリスク」は直近5年間で最低水準にあり、投資家が返済を確信している。
大事な点は、ミレイ氏の急進的な経済政策でも、国民の支持はほとんど失われていないことだ。就任演説で同氏は「ショック以外に選択肢はない」と警告したが、1年後にはアルゼンチン人の大多数がこれに同意している。労働組合連合による全国的なストライキが数回、公立大学の支出削減に反対する抗議活動が2回あった。しかし、大半のアルゼンチン人は落ち着いてマテ茶を飲んでいる。
ミレイ氏は予算削減を進め、国家財政を改善。具体的には、公共料金(電気、ガス、水道、公共交通)の補助金を減らし、労働市場改革や民営化推進、企業投資誘引策を実施した。これらの政策は効果を上げ、政府は財政黒字化を達成。彼の改革に対する反発は次第に薄れつつある。
ミレイ氏が成功を収めた背景には、国民がポピュリズム的な政治に疲れており、ミレイ氏の改革姿勢や強いリーダーシップに期待を寄せていたことがある。
ミレイは予想に反して柔軟な戦術を見せている。一部のペロン主義州知事と協力関係を築くなど、実利的な政治運営を展開。議会との合意を得ることが難しい中でも、ミレイ氏は労働改革や民営化法案を通過させるなど改革を進めた。議会では少数派であるにもかかわらず、彼は対立勢力との妥協を重ね、民営化の一環として国営企業の売却計画を進め、経済の効率化を図った。
とはいえ、アルゼンチンの貧困化は深刻で、経済は依然として厳しく、ミレイ氏の政策にはさらなる困難が待ち受けている。投資家は改革に期待を寄せているが、経済自由化には多くの課題が残る。さらに国際通貨基金(IMF)との関係も緊張をはらみつつあり、財政改革を評価する一方で、公共事業削減の長期的影響や家計負担増加に懸念を示している。
ミレイ氏は大統領就任1年で期待以上の成果を挙げた。今後は彼が今のリーダーシップを維持し、さらなる改革を進められるかが重要な課題となる。