トランプ新政権による厳しい移民政策が不法移民に不安をもたらす一方で、一部のブラジル人移民は宗教的信念や治安への期待などから同政権を支持していると16日付BBCブラジル(1)が報じた。
36歳のブラジル人、ラファエルさんは、妻ソライアさん(41歳)と4歳になる息子とともに、フロリダ州マイアミ都市圏で暮らす。彼の右足には電子足輪が装着されており、米国移民・税関執行局(ICE)の追跡信号が途絶えると、音や振動を発して警告する。同装置は8時間ごとに充電が必要だという。
一家は2021年9月にメキシコ国境を越えて米国入国した。夫婦の亡命申請は却下され、すべての控訴も失敗に終わった。半年前、最終的な控訴が裁判所で棄却された後、ICEはラファエルさんに足輪を取り付け、弁護士は送還命令が迫っていると警告した。
ラファエルさんは「夜、足輪の重みを感じながらベッドに横たわる。翌日の仕事に備えて眠らなければと必死だ。私たちが感じるのは恐怖だけだ」と語る。彼は塗装業に従事し、日給180〜200ドルを稼いでいる。
ソライアさんにとって本国送還は生死に関わる問題だ。彼女は、痛みを伴う発疹や筋力低下、飲み込むことができないほどの体調悪化を経験し、17キロの減量と髪の脱毛が続いた。診断により、まれな自己免疫疾患と判明。治療はフロリダ州のクリニックで科学研究の一環として行われており、米食品医薬品局(FDA)の承認はまだ得られていない。同治療法はブラジルでは許可されていないため、送還後は治療が続けられない。
トランプ氏が来年再び大統領の座に就くことで、一家が米国を去る可能性が高まっている。トランプ氏は選挙戦で反移民的な過激な発言が目立ち、不法移民を毎年100万人追放することを目指し、米国史上最大の追放プログラムを実施すると公約した。
この言動は、ラテン系の人々がトランプ氏を拒否する原因になると予測されたが、実際にはそうではなかった。EXAME誌の10月世論調査では、米国で投票権を持つ800人以上のブラジル人の6割は民主党支持、35%はトランプ支持だと判明したからだ。
ラファエルさんはBBCの取材に対し、「もし投票権があれば、トランプに投票していた」と驚くべき見解を明かした。彼はトランプ氏が犯罪者を追放する「掃除」を行っていると考え、政策に一定の理解を示す。彼は自身が警察トラブルに巻き込まれたことがなく、ブラジルでも問題がなかったため、米国に残れると確信している。
福音派としての信仰からトランプ氏に共感する一方、移民増加により仕事の競争が激化している事実に焦りを感じている。ラファエルさんは週に3日しか仕事がなく、妻は病気で働けないため、家族は夫の収入に頼らざるを得ない。コヨーテ(不法入国支援を行うあっせん業者)への借金返済もまだ半分しか済んでいない。それでも、彼は福祉制度に頼らず、自力で生きていこうと奮闘している。
彼は「生活は厳しいがなんとかやっている。彼ら(当局)が調べれば、私たちが何も政府の支援を受けていないことが分かるだろう。何の負担もかけていない。私は働きたいだけだ。だから、私たちを追い出す理由はない」と強調した。
現在、米国には約1100万人の不法移民がいると推定され、そのうち700万人がラテン系、その内ブラジル人は少なくとも23万人にのぼる。ブラジルからの不法移民は過去7〜8年で急増し、ほぼ2倍の人数となった。