ブラジル日本文化福祉協会(文協)のブラジル日本移民史料館(山下リジア運営委員長)は9日午後、サンパウロ市の文協ビル3階の梅棹忠雄研究室で、JICAブラジル事務所の宮崎明博所長と川村怜子次長ら3人に対し、JICA貸与のドイツ製大型スキャナーZeutschelの利用状況説明会を行った。
冒頭、石川レナト会長は「JICAの支援は、我々の先人が残した歴史資料デジタル化計画を進めるに当たって決定的な進展をもたらした」と感謝した。同館は以前からデジタル化計画を持っており、その難題だったのが邦字紙だった。紙面サイズが大きいため、通常のスキャナーではデジタル化が不可能なため、特別にJICAから大型機を貸与してもらった経緯がある。
同大型スキャナーは2020年10月に貸与され、史料館職員が使用方法の指導を受けた。そこで2点の問題点が判明した。一つ目は戦前の新聞は紙が劣化してめくるだけでも裂けるケースがあること、二つ目は半年分の新聞ごとにハードカバー装丁され、見開き部分に記事が巻き込まれて読めない部分があることだ。製本されたものを解体する必要があり、その技術を職員が習得することになった。
そのため、職員の荒木マヤさんが歴史資料修復専門コースをオンライン受講し、彼女が解体作業を行っている。加えて、大学で歴史学を専攻したレオナルド・フォンチスさんが10月から史料館でスキャナー作業を担当し、週3回行うようになり、一気にスキャナー活用が進んだ。その経緯を一行は、本人たちから話を聞いた。
フォンチスさんが「主に戦前のブラジル時報の紙面を、一時間に60ページ分スキャン作業をしている。今やっているのはちょうど100年前の紙面です」と説明すると、文協の石川レナト会長や西尾ロベルト副会長らは驚きの声を上げた。
荒木さんも「解体した紙面は、酸化が進まないように特殊な紙に包んで保存する必要があるが、その機材が高価。今も歴史資料修復の専門家グループに入って、日々知識を深めているところ」と説明した。二人が揃った結果、現在までに戦前のブラジル時報1万9646ページ分のスキャン作業が終わっている。
宮崎所長は「貸与した機材が役に立っている様子が確認でき、安心した。歴史的な資料のデジタル化はとても重要なことなので、ぜひ引き続き使ってほしい。貸与機関は5年間となっており、来年終了予定だが、その後も継続して使ってもらえるよう考えている」と述べた。
西尾副会長は「この機材に限らず専門家派遣など、JICAには大変感謝している。おかげでフォンチスさんのような移民史研究家の卵が育ちつつある」と目を細めた。史料館顧問の渡部和夫さんは「デジタル化された史料は、将来的にブラジルの財産として重要なものになる。我々は90年代にコチア、南銀、南伯などのリーダーを失ったが、日系人への信頼という何物にも代えがたい財産を先人は残してくれた。邦字紙はその代表的なもの」と語った。