JICA協力隊員リレーエッセイ=ブラジル各地から日系社会を伝える(29)=食事を通じて健康と笑顔の花を=サンパウロ日伯援護協会さくらホーム 阿部則子

さくら公園を散歩中の入居者と阿部則子さん

 サンパウロ市内から車で東に約3時間、だんだんと空気や景色が変わってくるのを感じます。山道を登ってたどり着いたのは、標高1600mにある、人口5万人ほどの寒さを楽しむ町として有名な、ブラジルのスイス、カンポスドジョルダン市です。私は、この街でサンパウロ日伯援護協会が運営する「高齢者養護施設さくらホーム」でボランティア活動中の阿部則子です。
 2024年5月、同市に着任した日は、あまりの寒さに荷物整理より先にスーツケースからダウンジャケットを取り出し、そのまま寝てしまいたいくらい、サンパウロ市との気温の差に驚きました。今年の冬にも何度か霜がおりて冷え込むなど、Tシャツより厚手のダウンが必須の街です。
 サンパウロ日伯援護協会は、1959年に設立されたブラジルの日系社会を代表する医療、福祉機関です。サンパウロ州内で複数の病院や医療センター、高齢者施設、自閉症児療育施設を運営しています。さくらホームはかつて結核患者療養施設でしたが、医療の進歩により役目を終え、現在は高齢者養護施設として約20名の入居者へ介護サービスの提供をしております。
 隣接している公園は、以前に造園を専門とするボランティアがJICAより派遣され、現在も現地スタッフにより丁寧に手入れがされています。四季折々の花や緑が、訪れる人々を楽しませてくれます。7月~8月にかけては、この公園の一番のイベント「桜まつり」が開催されます。桜の花400本が満開になると山全体がピンクに染まり絶景です。日本と同様、桜を愛でるために毎年約2万5千人もの観光客が訪れます。
 配属先では、厨房で利用者様のための食事作りを中心に日本食の紹介や日本食のレシピ作成をしています。厨房のスタッフは全員非日系ブラジル人ですが、初めての餃子包みや、おにぎりの作り方もすぐに覚え、私より上手に作ってくれることもあります。野菜は日本と同様なものが揃うので、日本食を作るのには不便はありません。しかし、例えば茄子は日本の物と比べると大きく約3倍の300gあります。皮は少し硬いので調理の時には皮を剥くなど工夫が必要です。その一方、りんごは手のひらサイズで皮を剥かずに食べます。食材は圧力鍋を使用することで時短に繋がり、煮崩れせず柔らかく仕上がるので、大変効率よく重宝しています。

共に食事作りを行う厨房スタッフと

 日本では病院や施設栄養士として約20年、大量調理にかかわってきましたが、調理器具は全てスイッチ1つで全自動が当たり前でした。ここでは、スタッフが鍋で上手に火力調節を行いながら炊飯をしており、ご飯の良い香りが食欲をそそります。しかしここは標高が高いため、水分量の調整が非常に難しく、時々焦げてしまうこともあります。焦げた部分のご飯は硬いため提供ができず廃棄していたこともあったそうです。今ではブラジルでも手に入るしょうゆを足して焼きおにぎりにするなど、リメイクの提案を行い皆さんに喜ばれています。
 また、流石はブラジル、フルーツ天国と言われるくらいフルーツは豊富で、果汁100%のフレッシュジュースをいつも提供できます。とてもおいしく、日本では真似できない贅沢です。
 私の活動はまだ始まったばかりです。食事を通して利用者様の健康と「mais quer(もっと欲しい)」という声が益々増えること、毎日食事を楽しみにしてくれる笑顔の花がたくさん咲きますよう、努めてまいります。

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