トランプ氏の大統領再任による米中貿易戦争再燃が懸念されるが、ブラジルは直接的な標的になる可能性は低いと、ガゼッタ・ド・ポーヴォ紙のアグリビジネス担当ジャーナリスト、マルコス・トシ氏が14日付コラム(1)で論じている。
これは、米国との貿易黒字がないことや輸出拠点として利用されていないことが主な理由だ。一方で、中国との農業貿易関係が重要であるため、ブラジルは静観しつつ市場の多角化を図るべきだと同専門家は指摘している。
米中対立が激化した場合、中国は南米からの食料輸入をさらに拡大する可能性があるものの、経済成長の鈍化により過去ほどの効果は見込めない。一方で、中国が米国市場への輸出を制限されることにより、余剰となった製品、特に自動車や電子機器などがブラジル市場に低価格で流入し、物価の低下に寄与する可能性も指摘されている。
農業分野では、ブラジルの対中国輸出の依存度が高い現状がリスクとして挙げられている。2023年、中国と香港がブラジル農業輸出全体の38%を占めたのに対し、米国とカナダへの輸出は7%にとどまった。中国が農産物の自給自足を進める中、インドなど新たな市場への輸出先多角化が必要だと、専門家は主張している。
また、米中間の貿易摩擦が新たな協定や妥協を生む可能性も指摘されている。アグリビジネス研究機関「インスペル・アグロ・グローバルセンター」のマルコス・ジャンキ教授は、米中の合意が米国に有利な形で進む場合、ブラジルの競争力が損なわれるリスクを指摘している。特にトランプ氏の自伝『米国を変える男(The Art of the Deal)』で記述されているように、初期の強硬姿勢は交渉における譲歩を引き出すための戦略であるとされる。
バイデン政権下では米中関係の緊張が表面化していたものの、トランプ前政権の関税政策は維持されており、さらに半導体などのハイテク製品の輸出禁止措置が追加された。これに対し、中国は軍事利用が可能な鉱物の輸出禁止を通じて報復した。
トランプ氏の保護主義的政策は新興国グループBRICS加盟国にも影響を与える可能性がある。同氏はBRICS通貨の創設に対し、強い反対姿勢を示し、これに関与する国々への制裁を示唆している。一方で、この状況が欧州連合とメルコスルの自由貿易協定合意を促進したとみられており、ブラジルにとって新たな貿易の機会をもたらす可能性もある。
環境政策では、トランプ氏がパリ協定からの再離脱や、欧州連合(EU)が推進する「グリーンアジェンダ」(環境や気候変動対策を重視した政策)への反発を示している。この姿勢により、EUの環境基準の影響力が低下し、ブラジル農業が恩恵を受ける可能性がある。
最終的に、ブラジルの戦略としては、現状の米中間の対立を静観しつつ、市場の多角化や新興市場の開拓に注力することが必要とされている。特にインド市場は中国に次ぐ規模を持つ潜在的な輸出先として注目されており、今後の交渉の成否が重要な課題となると、トシ氏は論じている。