【2025年新年号特集号】《記者コラム》どうなる、ボルソナロ?=26年大統領選を見据えて=奇数年では異例の政治激動年に!

 「選挙は毎度偶数年開催。奇数年は、選挙年のイメージをよくすべく行政の年」というのが伯国の通例パターン。だが今年2025年の場合はそうは言っていられない。場合によっては歴史に残る激動の年になるかもわからない。そんな一触即発の緊迫した1年になりそうな予感が大だ。2025年の政界で何が起こるか。占ってみたい。

クーデター裁判でボルソナロの命運は?

ボルソナロ氏(Valter Campanato/Agencia Brasil)

 2025年の伯国上半期の目玉は何と言ってもアウトゴウペ(セルフ・クーデター)疑惑に関しての裁判だ。2022年の大統領選以降、翌23年1月8日三権中枢施設襲撃事件に至るまでの、ボルソナロ前大統領をはじめとする前政権関係者に対しての裁判だ。これに関しては、連邦政府も最高裁も早めの決着を希望していることがすでに囁かれている。
 それは、ボルソナロ前大統領の2026年の出馬問題があるためだ。ボルソナロ氏は2022年の大統領選の際の二つの選挙法違反で8年に及ぶ被選挙権喪失の処分を受けているが、ボルソナロ派議員たちは襲撃犯を「抗議行動をしたかっただけでクーデターの意思はなかった」と最高裁の裁きを大げさなものと主張し恩赦法を進め、その一環としてボルソナロ氏の被出馬権の回復を狙っていた。
 だが、その計画が11月13日にサンタカタリーナ州のボルソナロ支持者の起こした最高裁主撃未遂事件、さらにその6日後に明るみになった4人の軍高官らによる当選したルーラ氏とアルキミン氏のシャッパ、並びにアレッシャンドレ・デ・モラエス最高裁判事の暗殺計画の存在が発覚。これにより「襲撃事件をクーデターと結びつけるのは大げさ」としたいボルソナロ派の解釈を強く主張することがかなり難しい状況となった。
 これでボルソナロ氏が、連警が結論付けたように「クーデター計画を熟知しており自ら関与した」と裁判でも判断されれば10年を超える実刑もあり得る。そうなれば、現在抱えている8年の被選挙権剥奪を逆転させるどころの話ではなくなる。
 ルーラ暗殺計画が発覚する前までは、2026年時の選挙高裁の長官がボルソナロ氏自身が最高裁判事に選んだカシオ・マルケス氏とアンドレ・メンドンサ氏が長官、副長官を務めるため、そこに逆転の一縷の望みが見られていた。だが、このアウトゴウペの裁判結果で8年を超える実刑判決が出てしまえば、それは選挙高裁の管轄を超え、ボルソナロ氏とは予てから対立が伝えられる最高裁での管轄となる。そうなれば、たとえ大統領シンパの判事が2人いたとしても2対9より良い結果は期待できない。

気になるトランプ政権による外圧

大統領時代のボルソナロ氏とトランプ氏(Alan Santos/PR)

 ボルソナロ氏はそのことを承知で大統領選の出馬に臨むつもりでいると伝えられている。それと同じ戦法を2018年にルーラ氏が使ったからだ。当時ルーラ氏は2018年4月にラヴァ・ジャット作戦での収賄容疑での実刑執行を始めていた状態だったが、最高裁から却下される8月までは粘っていた。
 ボルソナロ氏としては、この戦法に加え、米国から伯国への外圧にも期待したいところだ。それは1月から大統領に ドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲くためだ。同氏は前回の在任(2017〜20年)にボルソナロ氏と懇意だったことが有名だ。
 さらにはトランプ氏の閣僚の一人として、イーロン・マスク氏が就任することも気になるところだ。マスク氏はSNSプラットフォーム「X」の経営者であり、伯国最高裁からの「民主主義を威嚇する言動」を行う極右ジャーナリストのアカウントを停止することに抵抗し、22年9月に伯国でのXの運行を1カ月以上停止された上、多額の罰金を支払う羽目になったことで知られている。
 マスク氏は効率化省の長官なので直接的に伯国に牽制を仕掛けることはできないが、気になるのは米国の外相に当たる国務長官のマルコ・ルビオ氏が就任することだ。同氏はキューバ革命の頃に両親が米国の移民してきた過去があることから中南米の左傾化をすごく嫌悪していることで知られており、さらに中国に対しても強硬政策をとることを求めているとも言われていることから、BRICSに対しての風当たりも強くなることが予想される。
 米国政府が直接的にボルソナロ氏の裁判や釈放について干渉してくることは考えにくい。だが、伯国における左派政権の言論統制や保守弾圧などを国際社会に訴えて、強く圧力をかけることは十分に考えられる。

大統領選の候補選びはどうなるか?

ルーラ大統領(Marcelo Camargo/Agencia Brasil)

 こうした状況を受け、ボルソナロ氏が26年大統領選で誰を副候補につけるだが、個人的な憶測で語ると、私は三男のエドゥアルド下議が適任だと思う。エドゥアルド氏だと、圧力をかけることが考えられる米国政府と懇意であり、ボルソナロ氏の出馬が叶わなかった際に、支持者の同情をより強く集めやすくなるからだ。
 ただ、その場合、決選投票で勝てるほどの支持を得られるかには疑問符が残る。ボルソナロ氏の一族というだけで拒絶率の高さが予想されるし、有罪、実刑となればそれはなおさらだからだ。
 さらに、議会運営のカギを握る中道勢力セントロンが素直に支持すると思えない。社会民主党(PSD)など議員数の多い政党は、より中道とのバランス感覚の良いタルシジオ・デ・フレイタス聖州知事(共和者・RP)を支持したいことは予てから伝えられており、よりマイルドな中道票が欲しいなら、タルシジオ氏の方が決選投票での過半数は期待できる。ただ、タルシジオ氏だと一次投票での勢いが出るかどうかはやや疑問が残るところではある。
 ただ、現政権の側にも候補の問題が残る。順当にいけばルーラ氏続投ではあると思うが、その際にルーラ氏は81歳。楽観的にはとてもなれない年齢ではある。
 ルーラ氏の年齢的な衰えが懸念される場合、代替候補はフェルナンド・ハダジ財相になることは、これまでの経緯上、ほぼ確実。だが、その場合に気がかりな点が残る。それは現状の経済問題だ。現政権の経済政策はGDPや失業率低下では実績を出しているが、財政均衡法や支出削減の方針、インフレやドル高に対しての懸念を世間は強く抱えている。
 ここで足を掬われた場合に労働者党(PT)陣営に強い不安が残ることは否めない。奇しくもそれは、高齢のジョー・バイデン氏の出馬撤退が遅れ、国民がインフレを理由に政権交代を求めた2024年の米国大統領選を想い起こさせるからだ。(沢田太陽記者)

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