「極真空手を通じて、一人でも多くのブラジル人に礼儀礼節を尊重することの大切さを伝えたい」――2024年5月、実戦空手極真会館の新派団体、国際空手道連盟極真会館中村道場(I.K.O.N.)ブラジル支部が新たに立ち上げられた。ブラジルで空手指導者として活動していたレイス・ダニエル師範(48歳・3世・黒帯五段)が支部長を務め、ダニエル師範の下で極真空手を学ぶ門下生ら約250人、サンパウロ州を中心にした8道場が所属する。新支部を立ち上げの経緯と今後の意気込みについてダニエル師範に聞いた。(淀貴彦記者)
世界40カ国進出の中村道場
極真空手は練習や試合で直接打撃を当てる流派として知られ、実戦空手、フルコンタクト空手とも呼ばれる。極真会館は、世界最大の実戦空手団体で、1965年に大山倍達によって創設された。正式名称は、国際空手道連盟極真会館。
中村道場は、もともと極真会館現館長の松井章圭氏の派閥で関西地区を中心に活動していたが、2016年12月5日に松井派から独立した。中村道場は、中村誠氏(72歳・宮崎県)が総帥を務め、その息子である中村昌永氏(40歳、兵庫県)が代表を務めている。
中村誠総帥は、現役時代、身長183cm、体重120kgという恵まれた体格を活かし、極真会館開催の世界大会「オープントーナメント全世界空手道選手権大会」の第2回大会(1979年開催)と第3回大会(83年)の2連覇優勝を唯一成し遂げたことから、「KING OF KYOKUSHIN」の異名を持つ。
また息子の昌永代表も、2011年開催の全アジア空手道選手権大会優勝や12年イラン国際大会優勝、13年と15年に全日本ウェイト制選手権大会優勝など輝かしい実績を持ち、14年には極真会館Sランク選手として認定されている。
中村道場は独立後、2017年3月に国際部としてI.K.O.N.(International Karate Organization Nakamura)を立ち上げ、同時にバンクーバーに国際部本部を創設した。独立から約8年経った現在は関西地域を中心に活動し、海外道場を加えると約90の道場を展開している。海外道場はブラジルを含め現在約40カ国にまで増えている。
中村道場の理念に共感してブラジル支部立ち上げ
ブラジル支部長のダニエル師範は、極真空手を始めて36年になる実力者だ。1988年から99年までは極真会館松井派ブラジル支部に所属していたが、2000年に同団体松島派ブラジル支部に移籍した。
02年に同派ブラジルサンパウロ州責任者となったが、活動方針に対する意見の相違と、中村道場の理念に共感したことから、空手仲間で中村道場チリ支部長のルイス・アンドレス・フォンセカ・ベルガラ師範(34歳、黒帯四段、Luis Andrés Fonseca Vergara)が仲介役となり、中村道場国際部の中村龍志師範(カナダ・バンクーバー支部長)の承認を得て、昨年5月に松島派サンパウロ州道場生を引き連れて移籍した。
強者揃いのダニエル師範一家
ダニエル師範の妻クリスチーナさん(47歳、9級)や娘レイス・カミーラ・さゆりさん(21歳、4世、黒帯二段)、息子のレイス・エリキ・としおさん(21歳、4世、黒帯二段)も空手を学んでいる。
娘さゆりさんは、ブラジル国内大会で4度優勝、24年には他流派である新極真会の南米選手権で優勝を果たしている。本年5月東京で開催される新極真会世界大会の出場権も獲得した実力者だ。
息子のとしおさんもブラジル国内選手権型の部で4度優勝を収め、23年の極真会館松島派の世界大会型の部で準優勝を収めるほどの活躍を残している。
訪日稽古で家族的温かさ
ダニエル師範は、24年8月にチリで開催された「全南米空手道選手権大会」で中村代表と初めて対面した。また、昨年9月に中村道場が初めて開催した「第一回全世界空手道選手権大会」の観戦の為に訪日し、息子のとしおさんも、中村代表や中村道場の師範らと対面した。
ダニエル師範は、「中村道場は中村誠総帥やベテラン師範によるこれまでの積み重ねてきた空手の歴史と、昌永代表による新しい風がバランスよく混ざった団体だと思います。また、昌永代表は空手の世界では若いながらもベテランの師範や老若男女問わず尊敬され、道場関係者を引っ張るリーダーシップがあり、明るい未来があると思っています」と述べる。
また、世界大会で訪日した際には、大阪なにわ支部を管轄する小林悟師範(63歳、黒帯七段)の誘いで、天王寺道場で小林師範とその生徒らと共に合同稽古を行ったという。
ダニエル師範は、「小林師範には丁寧かつ細かく教えていただき、ブラジルでも応用できる新しい視点を学ばせてもらいました。非常に有意義な稽古でした。中村道場全体もそうですが、どこか家族のようで温かい印象を受けました」と語る。
中村昌永代表「南米を先導する支部に」
ブラジル支部立ち上げについて、中村代表にオンライン取材を行った。中村代表はダニエル師範について、「穏やかで落ち着きがある方。礼儀正しく、日本的な価値観に近いものを持っておられ、ベテランながら自ら前面に立ち、生徒に背中を見せて教えるという誠実さを持っている。ブラジル支部には国際大会の開催や世界大会への出場など、組織的にも発展し、南米を先導する一翼になってくれることを期待しています」と語る。
また、「ブラジルはサッカーやサンバが有名ですが、世界最大の日系社会があり日本文化や日本人に対する理解が深い親日国であることでも強い存在感を持っています。ブラジル人は身体能力と戦闘能力が高く、空手家としての素質がある。国としても非常にポテンシャルが高いと思います。武道を通じて協力関係を強めたいですね」と語った。
中村道場とダニエル師範の仲介役を果たしたチリ支部のルイス支部長は、「ダニエル師範は、空手の伝統を尊重しつつ現代的視点を持つ、厳格な指導者です。また、勉強熱心かつ武道精神に溢れ謙虚な方なので、チリ支部も含めて多くの人が信頼しています。I.K.O.N.ブラジル支部がより一層大きくなることを願っています」と信頼の言葉を述べた。
目標は門下生500人
ダニエル師範に今後の目標について聞くと、「中村道場に貢献できるようにブラジル支部をより拡大し、組織基盤を今まで以上に強くしたいです。直近の目標は、来年(26年)中に今の生徒数を倍の500人にまで増やします。世界大会などにも選手を輩出したいです」と語った。