空カンを叩いたところで、さして効果はないのだった。
しかし、何もせずに手をこまねいて作物がみすみす喰われるのを傍観してる気にはなれない。
バッタの新しい群は翌日も地平線に湧いて飛来した。
三日はど経つと、開拓地は死んだように静かになった。
もう喰われる作物が無くなったのだ。だから空カンを叩いてバッタを驚ろかす必要もなくなった。神社のお守りを畑に立てた者もいたが無効だった。今度は森の葉が喰われ始めた、パウミット・ヤシの柔らかい部分がまず喰われた。樹によっては樹皮まで喰い尽され無残な姿になった。
一週間たった。
多くのバッタの動作が緩慢になった。腹がふくれているメスらしかった。
十二日目のお昼頃、森で葉を喰っている筈のバッタは再び畑へ飛来してきた。
見守っている人々の囲わりで、狂ったようにバッタ同志がぶっかり合っている。何のことか解らなかったが、一匹だけに目星をつけて動きを追うとオス同志がメスを争って戦っているのだった。勝ったオスは待っているメスと交尾する。地上で何万という交尾、低空ではバッタ同志の壮絶な闘い……人々は憎さも忘れて自然の壮大な生殖劇に見とれていた。
ふと気付いて、
「アッ、アッ」
と人々は叫んだ。
交尾が終ったばかりなのにメスの尾の先がスルスルと七、八センチも延びたのだ。
「なんとまあ……」
感心して眺めているとメスは後尾を柔かい土に差し込んでじっとしている。
「ヤヤッ!もう卵を産んどるぞ」
土をどけると米粒の三分の一くらいの薄茶色の粒がおよそ百個ほども固まっているのだった。
人々は慌ててメスを叩き潰して回わった。無抵抗のメスは無残に潰された。棒も板切れもドロドロになった。
しかし、次次に広い地表に舞い降りるバッタの数の方が圧倒的に人間の殺すバッタより多い。
午後三時頃……多分、総てのバッタが産卵を終えたのだろう。何匹かが高く高く飛翔しはじめ、それを追うように次々に群は地上を離れた。