犯罪組織が刑務所で〝健康保険〟=歯のホワイトニングからボトックスまで

PCCリーダーのマルコーラ(Polícia Federal, Public domain, via Wikimedia Commons)
PCCリーダーのマルコーラ(Polícia Federal, Public domain, via Wikimedia Commons)

 サンパウロ州検察庁(MP―SP)と市警が1月14日に実施した大規模捜査により、ブラジル最大級の犯罪組織PCC(プリメイロ・コマンド・ダ・キャピタル)が運営する「VIP健康保険」と呼ばれる仕組みの存在が明らかになった。この非公式な医療ネットワークは、PCC幹部の収容先プレジデンテ・ヴェンセスラウ刑務所などで長年運用されており、美容目的の歯のホワイトニングや、しわを目立たなくして若々しい印象を与えるボトックス施術までを含む幅広い医療サービスが違法に提供されていた。14日付ジョビンパンサイト(1)や15日付イストエ誌サイト(2)で報じられた。
 捜査によれば、PCCに関連する弁護士グループ「シントニア・ドス・グラヴァタス」が医師や歯科医を雇用し、幹部メンバーに対して特別待遇を提供していた。患者の中にはPCCリーダーであるマルコ・ウィリアンス・エルバス・カマーチョ(通称マルコーラ)、パウリーニョ・ネブリナやアンジーニョといった幹部が含まれる。特にマルコーラは過去にボトックス施術を要請したものの、裁判所に却下された経緯もあった。
 この仕組みはPCCの全メンバーに適用されるものではなく、組織の特権階級に属する者のみが対象となっていた。捜査を指揮したプレジデンテ・プルデンテ司法警察局のエドマール・カパホス警部は「これは犯罪組織内の一部の特権階級メンバーだけがアクセスできるもの」と述べた。
 雇用された医師や歯科医は、PCCの直接的な関与を知らされずに業務を遂行していたとされる。捜査チームであるMP―SPのリンコーン・ガキヤ検事は「彼らは単にサービスを提供し、その対価を受け取っていただけ」と説明。一方で捜査の進展次第では、これらの医療専門家も責任を問われる可能性があるという。
 PCCはこの〝健康保険〟の維持のために莫大な資金を投じており、報酬は市場価格を大幅に上回る額が支払われた。支払いは第三者名義の口座を通じて行われ、不透明な方法で分割されるなど、追跡を困難にする工夫がなされていた。
 この捜査の発端は2021年、プレジデンテ・ヴェンセスラウ刑務所で訪問者が合成大麻やメモリーカードを持ち込もうとした事件だった。押収されたメモリーカードには、PCCの医療部門や関連する医師、歯科医、弁護士のリストが記録されており、その分析が今回の捜査につながった。
 今回の捜査では、サンパウロ州や他都市を対象に12件の逮捕状と14件の家宅捜索が執行され、PCCと関係する弁護士やNGOメンバー、麻薬持ち込みを試みた女性が逮捕された。犯罪組織の指示で設立されたとされるNGO団体「パクト・ソシアル&カルセラリオ」の活動も停止された。
 今回の事件は、PCCの組織力が刑務所内外に広がり、司法制度にまで影響を及ぼしている実態を浮き彫りにした。捜査当局は引き続き、PCCの不正ネットワークを解明し、組織壊滅に向けた取り組みを強化するとしている。

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