第3話-四季がない
ブラジルというと“暑い国”というイメージがあるが、サンパウロでは、寒い6月から8月の間、コタツや電熱器を使い、もっと南のサンタ・カタリーナ州では雪も降り、日本から来られる人は想像も出来ないような気候が襲って来る。
私も移住でサンパウロに着いたのが、一番寒い7月であった、当時、サンパウロ、グアリューリョスのノボ・ムンドに移住センターがあって(現在は、日伯友好病院となっている)、移住者全員が、全ての書類の取得が完了するまでそこに入居した。とにかく夕方、日が落ちて来ると、暖かかった日中と打って変わって、急に冷え込みが激しくなり、夜には数枚の毛布をかぶって、ワラの入ったマットの敷かれた二段ベッド(なぜか今でも記憶に残っているが、綿やスポンジの入った物ではなく、寝返りをすると、ゴソゴソと音がしたものである。)にもぐりこんだものである。朝は霜が落ち、地面・芝が真っ白になっていた、また吐く息が白く、朝食をすまして、サンパウロの街に行くバスに乗るまでが寒く、襟を立て、手をポケットに突っ込んで歩いた思い出がある。
また、日本から持って来たお金を全て叩いて借りた1DKの小さなアパートと、最低限必要な家具を購入して迎えた新居での夜は寒くて、トランクだけで移住して来た私と家内は、冬服も寝具もなく、その辺にあった全ての夏服をかぶって寝た。ブラジルってこんなに寒い国なのかとしみじみと身にしみて分かったブラジルでの生活の第一歩であった。
この様に日本では想像も出来ない寒い日がある。それにもっと南に行くと雪まで降る。何時だったか、仕事でパナラ州の州都クリチーバ市に仕事に行った時のこと、今日はサンパウロに帰るという日の夜、底冷えがして雪が降り始めた、工場のガラス窓越しに、照明に照らされてキラキラ光りながら降る雪がこんなにも奇麗だったかとうっとりと見とれ、古里は福島での夜降る雪を思い出していると、一緒に行ったパウリスターノ(サンパウロで生まれた人のこと)は、それこそビックリして窓に両手と顔をつけて、呆然と見ていた。彼にとって初めての光景だったのだろう。その夜の飛行場はうっすらと白く雪化粧され、それが空港の照明で反射されて宝石を散りばめたようにすばらしかった。
サンパウロの気候についてもう少し述べると、一日の内に夏から冬までの四季があることである。朝、今日は暖かくなるなと思い、軽い洋服で出ると、日中は確かに暑くてちょうど良い具合だが、夕方から小雨とともに急に冷え込み、寒くなってガタガタ震えるくらいになってしまい、一寸油断するとすぐに風邪を引いてしまう。この様に一日に夏と冬があるため、雨傘は離せないし、5月から11月位の間はちょっとした冬着が離せない。学生、若者を良く見るとわかるが、常に腰にカーデガンとか長袖の服を巻いて歩いている、これは流行のスタイルではなく、暑ければ腰に巻き、寒くなってきたら着るという、自然に出来た、夏冬防衛方法なのである。