第4話「ご苦労さまでした」「明日まで」
「マイゾウ・メーノス」の世界で手のつけられないのが、「アテ・アマニャーン(明日まで)」と頻繁に使われる言葉である。
まず仕事が終わって帰る時、日本であれば「ご苦労さまでした、お休みなさい、お先に失礼します」と言って、その日の労をねぎらい、まだ仕事で残っている人に、敬意を表した言葉で挨拶をして帰るのだが、それに対してブラジルでは「アテ・アマニャーン(明日まで)」と挨拶して帰る。
この意は「また明日、合いましょう」ですが、「出来なかったことは明日にしましょう、また明日があるよ」という意味にも取れる挨拶である。
日本人は、その日の仕事は何とかその日に終わらせようと一生懸命がんばる習慣があるが、ブラジル人は、今日出来なかったら、今日だめなら、明日があるから明日にしようという考えで、今日が明日になり、明日が明後日、一週間になり、数日になってしまって、約束の期限が全く守られないことがある。
車の修理、家の工事など、初めから約束の期間の倍はかかると思っていたほうが、後で頭が痛くならなくてすむ。1995年に家内が車の販売店で新車購入の手続きをし、15日後には納車するとのことで、2週間後に古い車を売って、販売店に新車を受け取りに行ったら、同じ車を二重売りしており、その車は別な客に渡されてしまっていた、私は憤慨してセールス部長と交渉し、同じ型の車を次の新車が入荷するまで無料で借りたが、新車を受け取るのにさらに2週間かかってしまった。
またマナウスではこんな事もあった、私が働いている工場に電気と電話を送る電柱が倒れ、電気、電話ともカットされてしまった、それが朝の9時頃。電気の方は、発電機で工場を稼動させ、電力会社に直接交渉して、なんとか夕方の3時には戻ったが、電話の方は、丸二週間も通じなかった。日本なら24時間の突貫作業で復旧させるだろうが、ブラジルのこと、朝9時頃始まって、夕方4時には作業者がいなくなってしまう、土曜、日曜は働かない。いくら電話会社に確認しても「明日は終わる」の繰り返しで2週間たってしまった。
幸い、同じ会社のサンパウロ工場とは、サテライトを使ったホットラインの電話と、その他は携帯電話で急場をしのぐことが出来たが、困ったのはインターネットが使用できなかったことである。
2週間後につながった時、インターネットのメールを取り込むのにかれこれ一時間もかかってしまった。(まだ、高速回線ではなく、電話回線を使っていたので)
家の改造工事も2ヶ月で出来る予定であったが工事が全然進まず、サンパウロで勉強している娘二人が学校休みでマナウスに来たときは工事の真最中、ホコリだらけの部屋で寝てもらった。
そして5ヶ月かかっても完成せず、雨季になってしまったので一部残して終わってもらったこともある。
これと似た様に良く使われる言葉として、「セ・デウス・ケ・キゼール(もし神様が欲すれば)」、「デウス・ケ・サーベ(神様だけが知っている)」という表現がある。
「がんばれよ、しっかりやれよ」というと、この「セ・デウス・ケ・キゼール(もし神様が欲すれば、出来るよ)」と返事が帰ってくる。本人の意志はどうなっているのか、まるっきり他人まかせで、「出来なくたって俺のせいではないぞ、神様のせいだ」と先手を打っているみたいで、一番嫌いな言葉であり、がっかりしてしまう。
私は、こういう奴に、「ノン・エ・デウス・ケ・キゼール、ボセ・ケ・テン・ケ・ケー(神様が欲すればではなく、お前がその気にならんか)」と言ってやる。
また、なにかものごとを尋たり、難しいことにぶつかると、「デウス・ケ・サーベ(神様だけが知っている)」と逃げられてしまい、真剣に考え、答えようとしない。こんな時は、「ボセ・エ・デウス、ボセ・サーベ(お前は神様だ、お前が知っている)」とやり返してやる。
このように、他人まかせで自主性が全くない。これもまた「マイゾウ・メーノス」の世界での言行であり、小さなときからカトリックの教義で育って、「神様第一、何でも神様」という考えが頭にしみ込んだ表現、言動、考えなのであろう。