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まずはおめでたい話から入ることにしよう。本コラムで度々報じてきたブラジル映画「アインダ・エストウ・アキ」が8月、日本で公開されることが決まった。邦題は国際タイトルと同じ「アイム・スティル・ヒア」になる。ブラジル映画が日本で公開されること自体があまりないが、すでにブラジル映画史に残る功績を多く成し遂げている映画なので、これはできるだけ日本の方にも見て欲しい。
日本公開が実現したのもひとえに主演のフェルナンダ・トーレスのゴールデン・グローブ主演女優賞受賞、さらに映画祭の頂点、米国アカデミー賞3部門ノミネートが大きい。そして、そのアカデミー賞授賞式が3月2日に行われる。
ブラジルで同賞は「オスカー」の名で映画ファンの間でかなり親しまれているが、奇しくもリオのカーニバルの最大の目玉、エスコーラ・デ・サンバのスペシャル・グループによるデスフィーレ(パレード)が行われている真っ最中に生中継される。パレードも大事だが、数カ月前から前代未聞の盛り上がりを見せるオスカーの生中継にチャンネルを合わせる人もかなり多いだろう。
さて、この「アイム・スティル・ヒア」のオスカー受賞の可能性に関してコラム子なりの予想をしておこう。まず、フェルナンダ・トーレスがノミネートされた主演女優賞だが、正直なところ受賞までは厳しいと思う。大本命は前哨戦となる他の映画賞で最も勝利している「ザ・サブスタンス」のデミ・ムーア。かつての人気女優の久々のカムバック作で「女性の美の老い」をテーマにしていることから共感を得られやすいのが強みだ。それに続くのが作品賞の本命「アノーラ」の新人女優マイキー・マディソン。フェルナンダはその次の三番手との見方をされている。
続いて、最大賞の作品賞だが、これはノミネートされただけでも栄誉なこと。だが、ノミネートそのものがサプライズだっただけに受賞までこぎつけることは考えにくい。本命は前哨戦の山場と見られる全米プロデューサー協会賞と全米映画監督協会賞を受賞した「アノーラ」。だが、ここにきて、フランシスコ・ローマ法王の病状悪化のニュースが舞い込んでいることから、英国アカデミー賞などを受賞した、その名も「教皇選挙」が追い上げてきているのも気になるところだ。
そうした中、非英語作品が対象の「国際長編映画賞」、これは勝利する可能性がある。2週前の当コラムにも書いたが、当初13部門ノミネートという圧倒的な強さを見せたフランス映画「エミリア・ペレス」の監督、主演女優に人種差別的スキャンダルが浮上したためだ。同賞受賞に向けて「アイム・スティル・ヒア」が猛追をかけているが果たして追いつけるか見ものだ。(陽)