
米中間で繰り広げられている貿易戦争は、ブラジルに高インフレと経済減速を引き起こし、スタグフレーション(高インフレと低成長の同時進行)が現実となる恐れがある。経済専門家であり、全国財・サービス・観光・商業連合(CNC)経済部外部顧問を務めるカルロス・タデウ・デ・フレイタス・ゴメス氏が10日付ポデール360(1)に論説を投稿し、この問題に関する鋭い分析を展開。ブラジル経済が直面するリスクとその対応策について考察した。
最近の米国とその主要貿易相手国である中国、カナダ、メキシコとの貿易戦争の激化は、ブラジルにとって重大な影響を引き起こす可能性がある。トランプ米大統領は、中国から輸入されるすべての製品に対する関税を20%に引き上げることを決定し、それに対して中国は米国産食品に追加関税を課すという報復措置を取った。
この動きは、ブラジルの農産物に対する外需を高め、輸出部門に利益をもたらす一方で、ブラジル内の食品価格の上昇という副作用を避けることはできない。
ブラジルのインフレ情勢はもはや好状況にはなく、猛暑や新たな環境制約といった気象要因が価格に圧力をかけ続けると予想されている。そのためインフレ率は今年6・95%、26年には5・60%に達し、中銀が設定したインフレ目標の上限を超え続ける可能性がある。つまり、景気にブレーキをかける基本金利が下げられない状態だ。
基本金利が下がらず価格が上昇する中で、ブラジル経済は減速の兆しを見せ、政府は財政的なジレンマに直面している。インフレのさらなる悪化を避けるために政府支出を抑えるべきだが、それでは次の選挙で勝てないので積極財政を維持して国債膨張で対処するかという問題だ。
80年代にインフレ高止まりと債務増大がハイパーインフレを引き起こした。だが現在のブラジルには十分な外貨準備があり、ドル建ての債権国でもあるため、外部危機に対してある程度の防御が可能であるという点で違いがある。
とはいえ、ブラジル経済には依然として強いインフレ連鎖が残っており、そのためインフレが自動的に高止まりしている状態が続いている。国債が増加する中で、将来の世代はこの財政的不均衡のコストを負担することになる。
米国の経済状況はブラジルと似ているが、決定的な違いがある。それはドルが世界貿易の主要通貨であるため、米政府は通貨を発行して赤字を補填できるという点だ。このような手段が取れないブラジルは、公共支出の削減など他の解決策を見つける必要がある。
中銀はインフレ抑制に努めてきたが、公的会計に対する管理不足により金融政策の有効性が失われるという財政優位の課題に直面している。政府が過剰な支出を続けると、いくら基本金利を上げてもインフレが収束しない状態になってしまう。
今の状態では、経済の軌道修正の時間はまだ残されているものの、そのためのチャンスは急速に狭まりつつある。さらに、ドル高が続くことで、ブラジルの国債の返済が困難になるという懸念が高まり、その結果、ブラジル経済や国家の信用リスクを引き上げる可能性がある。
さらに中国との連携を深め、米国に代わってブラジルが需要を補う立場を取ることは、中国の報復措置を支持する意図として解釈される恐れがある。この立場は、米国側からの貿易報復を招くリスクを内包しており、その結果、ブラジル経済にスタグフレーションを引き起こす可能性をはらんでいる。