芸術フットボールを追い求めて=沢田啓明=第6回=ブラジル人を虜にする2大パッション=フットボールとカーニバル

今年のガヴィオンエス・ダ・フィエルのパレード(Foto: Paulo Pinto/Agência Brasil)

 ブラジル人を虜にしてやまない2大パッション(情熱)が、フットボールとカーニバルだろう。
 カーニバルは、元々はカトリックの風習だ。イエス・キリストが復活した日(復活祭。通常4月頃)の46日前から肉食や祝祭を控え、その直前に羽目を外す習わしがあった。
 これがブラジルに伝わり、アフリカ伝来の強烈なバッテリア(打楽器演奏)を核とするダイナミックなサンバとそれに付随する官能的なダンスと融合。派手なことが大好きなブラジル人の性向と相まって、とてつもない肥大化を遂げた。
 リオ、サンパウロなどの大都市ではサンバドロモと呼ばれる特設会場(数万人収容)で行なわれ、多いときは数千人のメンバーを擁する巨大なサンバチームが入念に準備したテーマに沿ってオリジナル曲を演奏し、巨大にして煌びやかな山車を押し立て、華やかな衣装をまとってエネルギッシュに踊りながら練り歩く。
 日本の盆踊りのような単なるお祭りではなく、コンペティション。2日がかりで全チームの演技が終わると、審査員が様々な項目で採点を行ない、順位が決定する。
 上位に食い込んだチームは、リオであれば400万レアル(約1億円)前後の賞金を獲得する。その一方で、成績下位のチームは下のカテゴリーへ降格する。
 これに対し、北東部などでは市が音楽と場所を提供し、観衆も自ら歌い踊って夜通し楽しむことが多い。
 今年のカーニバルは2月末から3月初めまで行なわれ、例年のように、期間中は国内のほぼすべての機能が停止した。
 この国のフットボールとカーニバルには、いくつかの共通点がある。
 まず、庶民にとっての最大の娯楽であること(その傾向はカーニバルの方が強く、実は中流以上の階層にはカーニバルに関心が薄い人が少なくない)。
 また、黒人文化の影響が強い。
 フットボールはイングランド発祥のスポーツだが、ブラジルでは黒人や混血の選手たちが技巧を凝らしたドリブルや多種多様なキックを〝発明〟し、テクニカルで創造的な独自のプレースタイルを作り上げた。
 これに対し、カーニバルは前述のように元はカトリックの習慣だったが、ブラジルではアフリカの音楽とダンスの影響を色濃く受けて独自の発展を遂げた。
 競技性があり、結果にこだわる点も共通している。
 これらの類似点のせいか、ブラジルのフットボールの選手とファンの多くはカーニバルが大好きだ。
 今年は、音楽好きで知られる元ブラジル代表MFロナウジーニョが北東部サルバドールのカーニバルのステージに立って話題となった。
 過去には、1999年、イタリアの強豪クラブに所属していたブラジル代表FWエジムンドがチームが優勝争いをしていた最中にカーニバルを楽しむため一時帰国。彼の不在が響いて優勝を逃し、地元メディアとファンから厳しく批判されて退団に追い込まれたことがある。
 サンパウロでは、いくつかのクラブのサポーターグループがサンバ部門を持ち、カーニバルに参加する。
 コリチャンスのガヴィオンエス・ダ・フィエル(忠実な鷹)、パルメイラスのマンシャ・ヴェルジ(緑の斑点)、サンパウロのドラゴンエス・ダ・レアル(王室のドラゴン)は「グルーポ・エスペシアル」(1部)の常連で、今年はガビオンエスが3位、ドラゴンエスは6位だったが、マンシャは最下位に沈んで「アセッソ」(2部)へ降格した。
 サポーターグループがその年のカーニバルで上位に食い込むと、その後の試合で応援が大いに盛り上がり、勢いに乗ってチームも好成績を残すことが多かった。今年はどうなるか—-。
 カーニバルが終わり、人々の暮らしにも日常が戻ってきた。
 フットボールもシーズンが再開され、9日夜、サンパウロ州選手権準決勝でコリンチャンスがサントスを倒して決勝進出を決めた。
 この試合で、サントスのブラジル代表FWネイマールはベンチ入りしたものの、ピッチには立たなかった。
 試合後、サントスの監督は「彼は2日の試合後、左太ももの違和感を訴えた。深刻な故障ではないが、まだ痛みが残っており、大事を取ってプレーさせなかった」と語った。
 実は、3日夜、ネイマールは家族と共にリオのカーニバル会場に現われ、4日未明までスペクタクルを楽しんでいた。このため、「故障中でありながら、治療と休養をないがしろにした。プロ意識の欠如が甚だしい」と痛烈に批判されている。
 ロナウジーニョはすでに引退しているから問題ないが、現役の選手がカーニバルを愛しすぎるのは考えものだ。

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