マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(11)=サンパウロ 梅津久

飲酒運転取締風景(mt.gov.br)
飲酒運転取締風景(mt.gov.br)

第6話 何のための法律

 この“マイゾウ・メーノス”の世界は、法律の世界でもありうる。まず飲酒運転であるが、法律上は日本以上に厳しい規制になっているが、取り締まりがほとんどなく、一斉取り締まりがあってもどちらかというと麻薬、銃器取り締まりが優先して、よほどのことがない限り飲酒運転で捕まることはない。
 各州議会(法律は連邦であっても、施行は州に委ねている)でアルコール検出器は法律的に適切なのかどうかと議論されるありさまで、アルコール検出器を使った取り締まりはあまりやられていない。
 仮に検問で酒気帯び運転の容疑で捕まり、アルコール検出器で検査を強要されても、本人が拒否すれば取締官は逮捕できず、釈放しなければならない。
 こんなであるから、食事でも、宴会でも好きなだけアルコールを飲み、自由に車を運転して家に帰る事が出来る。とても日本にある代行運転手という職業はここブラジルではなりたたない。
 断っておきますが、事故を起こし、酒気帯び運転が分かれば犯罪として取り扱われ、厳重な処罰を受けなければなりません。また近年、酒気帯び運転の取り締まり法が強化され、アルコール検出器の使用、その他の証拠が合法化され、主要道路での“レイセッカ(禁酒法)”取り締まりの検問が頻繁に行われており、要注意が必要です。捕まると、1年間の運転免許証の取り消し、取得ができなくなります。
 交通規制の中で一番珍事だったのは、1998年に国会を通過し、大統領がサイン承認した、緊急医療具の携帯義務に関する法律である。
 これは1999年元日をもって全ての自動車、原付二輪車は緊急医療具を備え付けなければならないというものであった。ところがいざ緊急医療具を買え求めようとしても市場に不足し、街の露天商人が道路でビニール袋に必要な物を入れて売り出すありさま。それをテレビ局が密着取材報道をしたが、とても衛生もなにもあったものではない。
 さらに施行前日の大晦日になっても不足は解消せず、私も大晦日に街中の薬局屋を回ったが手に入いらず、諦めて、もし検問にあったら、「手に入らなかった」と言おうと腹を決めて買わなかった。
 案の定、アマゾナス州知事が全国で一番にこの法律の施行は見合わせるとの記者会見。「さすが、偉い!!」と拍手したものです。これが引き金となったのか、その年の7月には正式に国会で廃案となった。なんともだらしのないこと。これは明らかに一部の企業家が金儲けのためにロビー活動を行って作らせた法律である。
 もっと面白いのは、ブラジルには“レイ・デ・セッカ(乾燥法)”という“禁酒法”があり、選挙の前日夜10時から選挙当日の投票が終わる夕方6時まで、いかなる飲食店、公共の場所でもアルコール類の販売・飲酒を禁止した法律がある。
 これは選挙時の政党間、立候補者間の揉め事、けんかを避けるとともに、選挙義務制度のブラジル人が酒を飲んで選挙をサボるのを防止するためである。
 ところが、面白いことに、選挙翌日の新聞の一面に私の仕事の同僚が街角のバー(軽い食堂)でテーブルの上にビール瓶を何本も並べて飲んでいる写真が大きく載っていた。これには皆大笑い、一躍有名になった。
 これがなんでもありの“マイゾウ・メーノス”の世界ブラジルである。
 選挙義務制度とは、18歳以上の全国民は選挙権カードの取得を義務付けられ、投票が義務化されており、投票の記録がないと公務員試験が受けられない、身分証明書が取れない、パスポートが取れない、公共機関への販売、事業の競売に参加出来ない、就職での提示を求められるなど日常生活に制限を加えるしくみになっている。
 選挙日は通常10月第一日曜日に実施されるが、当日自分の登録した投票所で投票出来ない人は投票所や空港など指定された場所で棄権証明書を取らなければいけない制度になっている。
 追記―現在ではアルコール検査は合法化されており、マナウスでもかなり厳しく行われているので注意してください。特に週末の街の中、郊外と郊外を結ぶ主要道路や、ポンタネグラ街道、飛行場の裏のトゥリズモ街道は要注意です。

最新記事