
南米ペルーで人気歌手が恐喝集団に殺害された事件を受け、同国政府は16日、首都リマとその西隣カヤオで緊急事態宣言を発令し、軍と警察が協力して犯罪に対処することを決定した。被害者はバンドメンバーと共に演奏直後に犯罪グループに襲われ、2発の銃弾を受けて死亡した。彼が所属するバンドは、犯罪組織から高額な金銭を要求されていたという。ペルーでは近年、恐喝犯罪が急増しており多くの国民が被害に遭っていると17日付G1など(1)(2)が報じた。
この緊急事態宣言の発動は、音楽バンド「アルモニア10」のボーカルで、〝エル・ルソ〟の愛称で知られるパウル・フローレス氏(40歳)の殺害事件がきっかけだ。彼は16日、リマ東部での演奏後、バンドのメンバーと共にバスで移動中、バイクに乗った犯人に襲われ、射殺された。
事件後、バンドのメンバーらは、犯罪組織から長期間にわたり脅迫や恐喝を受けており、音楽活動を続けるために高額なみかじめ料を要求されていたことを明かした。
他の複数の音楽バンドも恐喝の標的となっており、犯人はアーティスト本人だけでなく、家族に対しても、プライベートに関する詳細な情報を示しながら脅迫していたとされる。
この事件はペルーで蔓延している〝恐喝の波〟の一例に過ぎず、続発する犯罪の深刻さを改めて浮き彫りにした。フローレス氏の死は、ペルー国内で多くの人々の怒りを引き起こし、政府に対する批判が高まった。ペルーの著名な歌手マリア・ピア・コペロ氏は「私たちは命を奪われ、守るべき人々は何もしていない」とSNSで痛切な叫びをあげた。コペロ氏は恐喝の被害に遭っているのは著名人だけではなく、日常生活を送るすべての国民にも及んでいることを訴えた。
ペルーでは恐喝犯罪が急速に広がっており、その被害者は多岐にわたる。例えば、バスの運転手らは恐喝集団から支払いを強いられることが日常的だが、報復を恐れて多くの事例は報告されていない。運転手らは命を危険にさらしながら仕事を続ける状況にあると地元メディアは伝える。学校の校長が恐喝され、爆弾攻撃を受けるという事件も発生しており、治安が極めて深刻な状態にあることが明らかとなった。
一方、ペルー政府は犯罪組織に立ち向かうために強化策を取ると同時に、国内の治安を守るための新たな取り組みを進める必要があると認識している。グスタボ・アドリアンセン首相は、軍と警察が協力して、治安回復に全力を尽くす方針を示した。だがペルーの政治的不安定さと政府の弱体化が、犯罪組織の拡大を助長しているとの指摘もある。同国では過去10年間に6人の大統領が交代し、その間に4人の元大統領が刑務所に入った。このような政治の混乱が、犯罪組織に対する対策の遅れを招いていると、専門家は警鐘を鳴らしている。
同国の犯罪組織の勢力拡大には、外国の犯罪集団が関与しているとの指摘もある。特にベネズエラ、コロンビア、エクアドルからの犯罪組織がペルーに進出して恐喝を行う一方で、麻薬密輸などの犯罪活動も展開する。これらの犯罪集団はペルーでの政治的空白を利用して活動を広げて、同国政府の対策は依然として不十分な状況だ。
ペルー問題研究所(IEP)が1月に発表した調査結果では、同国民の20%が恐喝の被害に遭ったことがあると推定されている。警察への報告も増加し、2024年に1万8千件以上の被害届を受け取り、2021年に記録された4500件から大幅に増加した。だが、実際には多くの被害者が恐怖から声を上げることをためらい、恐喝集団に屈するしかない状況が続いているという。