ブラジル人AI研究者が米国入国拒否=戦略的分野での警戒からか?

ロドリゴ・ノゲイラ氏(Foto: Maritaca AI/Divulgação)
ロドリゴ・ノゲイラ氏(Foto: Maritaca AI/Divulgação)

 ブラジルの人工知能(AI)分野を代表する研究者の一人、ロドリゴ・ノゲイラ氏がハーバード大学での講演のために渡米しようとしたが、米国ビザ発給を拒否された。彼は、自分の研究分野が世界主要国間の激烈な競争領域であることが影響した可能性があると考えている。20日付エスタード紙(1)が報じた。
 ノゲイラ氏は2022年、ChatGPTなどの言語モデルを専門とするテクノロジースタートアップ「Maritaca AI」を設立するなどで注目を浴び始めた研究者だ。
 同紙によれば、ノゲイラ氏は「2月27日に米国総領事館でビザ申請の面接を受けた。最初は問題なく進んでいたが、自分がAI分野で働いていると告げた途端、雰囲気が一変し、暗雲が立ち込め始めた」と語る。「クライアントの大半がブラジル企業であることを説明した。23年に台湾で開催された検索技術に関する会議『SIGIR』に参加したことについても話した」と続けた。
 当初、ビザは承認されたものの、翌日、総領事館から台湾への渡航理由やニューヨーク大学での研究についての追加説明を求める通知を受け取った。同氏は過去に6年間米国に滞在し、そのうち5年間は同大学で博士課程に在籍していた。研究室には18年に「コンピューター科学のノーベル賞」と称されるチューリング賞を受賞した著名なAI研究者ヤン・ルカン氏も名を連ねている。
 3月10日、総領事館はノゲイラ氏に対し、詳細な履歴書、米国での博士論文のコピー、全論文のコピー、旅行履歴の提出を求め、同氏はすべての資料を提出した。だがその2日後にはビザ拒否の通知を受け、向こう12カ月間、新ビザ申請は不可だと告げられた。
 これによりノゲイラ氏は4月18日に開催予定のハーバード大学でのイベントへの参加を断念。同氏は「講演はオンライン形式に変更されたが、ボイコットすることも考えている」と明かした。
 同氏はこれまでに複数回、米国ビザを取得したが、問題なかったため、今回の発給拒否の理由として、AI分野での活動と台湾訪問が焦点になったとみている。米国はAI技術を戦略的分野と位置づけており、技術流出の防止や安全保障上の懸念から、特定の研究者への入国許可を厳しく管理している可能性がある。
 同氏は自身のSNSでの投稿も影響した可能性があると指摘。「ブラジルは独自のAI開発基盤を構築し、他国への依存を避けるべきだ」と主張し、「技術的な問題だったはずのものが政治問題に変わった」と述べていた。
 ノゲイラ氏のケースは最近の類似事例の一つに過ぎない。フランスのル・モンド紙は19日、9日にフランスの宇宙研究者が米国入国を拒否されたと報じた。この研究者はフランス国立科学研究センター(CNRS)のミッションの一環として、テキサス州ヒューストンで開催される会議に出席する予定だったが、米国移民当局により入国を阻まれた。
 米国入国管理局の職員は、彼の電子機器を調査した結果、トランプ米大統領の科学政策に反対するメッセージを発見し、それが「憎悪的かつ陰謀論的な内容」であり「テロ行為に該当する可能性がある」と判断した。同研究者は電子機器を押収されたうえで、10日に欧州へ強制送還された。FBIによる調査対象となったが最終的に不起訴となった。
 研究者が国際会議に参加できない状況が続けば、学術的な情報交換が阻害され、研究の発展にも影響を及ぼす可能性がある。特にAIのような最先端技術分野では、国際協力が不可欠であり、政治的要因による制約が学問の自由を脅かすと懸念されている。

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