第7話
メチャ・クチャな労使関係(その1)
「緑の大地」、「豊かな国」と言われるこのブラジルの国も、反面「犯罪の多発」「労働訴訟の多さ」では世界一を保っている。
犯罪ではサンパウロ州だけでも、年間21万件、ピストル強盗の発生数は1時間に24件と言われる。
労働訴訟件数は260万件、アメリカの7万5千件、日本の1千件より飛び抜けて多い。
この様に非常に複雑な労使問題の原因に関しては、日本の労働法では考えられない形で労働者が保護されていることがある。
休んでも給料がもらえる
休んでも、休んでも給料が引かれないことが、ブラジルの労働法によって保障されており、個人の都合、極端にいうとずる休みをしても給料を引かれない規定がある。
それは、病気だったと言って、医師の診断書を取り、その診断書に、休む日数(家でズル休みする日数)を記入してもらっておき、それを仕事に戻った時から24時間以内に会社に提出すれば、会社は病気による欠勤分を保障してやらなければならず、またそれを理由に解雇することも出来ない(すなわち、病気欠勤は出勤とみなす)。
こんな法律があるから、従業員は休んでも、必ずと言っていいほど、なんらかの方法で(例の『ケブラ・ガーリョ』で)医師の診断書を持ってくる。またそれに対して、会社の契約医はその診断書にサインをして承認しなければならないが、どうもおかしいと思っても、医師間のモラルでその診断書を拒否することは出来ず、承認のサインをすることになる。
そういう従業員をクビにするには、「デミソン・セン・ジュスタ・カウザ」と言って、「正当な理由なし解雇」の方法で、30日間の給料(これを「アビゾ・プレビオ」という)をつけ、その他の権利を支払って解雇するしかない。
ズル休みの給料を支払い、さらに「ノシ」として30日分の給与と、FGTS(勤続年限保障基金-退職積立金)の積立金額の40%の契約違約金、それに有休休暇30日分と13ヶ月の給料を月数比例で支払って解雇するしかない。それも決して病気欠勤で休んだから解雇するという理由は付けられない。後で「私は病気で休んだのに解雇された」と労働裁判問題になりかねない。すばらしい労働者天国である。
実際にテレビのドキュメント報道で、街頭で医師の診断書偽造作成の実態を全国ネットで流したテレビ局があったが、その後どうなったか報道されていない。これも買収されたのか?
2年間解雇できない
もっと手の付けられない例がある、それは法律で定められている、災害防止社内委員会(CIPA)の従業員代表委員に対する、雇用保障の取り扱いである。
年に一回、従業員による選挙によって、一年の任期で数名の安全委員が選出される(人数は会社の職種と規模によって違う)。これら安全委員の雇用保障が会社にとってとてつもなく大きな「足かせ」になっている。
安全委員は一年の任期とさらに続けて再選の権利があるから、委員に選出されると2年間の雇用が保障されることになる。この雇用保障を利用して、労働者シンジケートが各会社の安全委員を洗脳して、シンジケート活動の第一線活動家に仕上げてしまう。そのため、昨日まで優秀だった従業員が、数日の内にコロッと変わってしまい、まず直接の上司に反発し始め、そのうち従業員を代表して会社にいろんな要求をしてくるようになる。ひどくなればストライキの最先鋒となってしまう。
さらに当然ながらシンジケートの活動で頻繁に休むようになるが、先ほどのようにシンジケートの医師の診断書を持って来るので、なにも出来ず休んだ分の給与まで払わなければならない。
かといって、いかなる理由でも解雇出来ない。実際に2年間の残り全ての権利分を支払って解雇しても、労働裁判に訴えられ、裁判所で再雇用の判決を出されて再雇用に追い込まれたケースもある。
そのうち、彼等はシンジケートの宣伝車の上にあがってマイクを握りアジっている姿に変貌するのである。(続く)