
米国アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた『ブラック・ボックス・ダイアリーズ』(伊藤詩織監督、2024)が8~10日、サンパウロ市の文化施設「SESC」内映画館で上映された。8日の国際女性デーにちなんで、女性監督映画を無料公開するキャンペーンの一環。10日の上映会には138人が訪れ、上映後、会場からは拍手が巻き起こった。ジャーナリストのフラヴィア・ゲーラ、作家のアリアナ・ネグレイロス、グローボ女優のアナ・ヒカリ各氏によるトークイベントも行われた。
同作では監督の伊藤氏が受けた性被害とその後の裁判などを題材に、約10年間にわたる実体験を作品化した。世界58カ国で公開され、日本人監督初の米国アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート作となった。映像ストリーミングサイト「Prime Video」などでも公開中。日本では現在、使用許可の出ていない映像が使われているなどとしても物議を呼んでいる。
上映後のトークイベントでは、アナ・ヒカリ氏が過去に元交際相手から受けた暴力被害の経験を明かし、「私が性暴力の被害に遭ったら記者会見やトーク番組で声をあげるかもしれない。でも、自身でドキュメンタリーを作ることは出来ない」と話し、他のパネリストや観客からも「勇気ある行動(corajosa)」と伊藤監督を称える声が寄せられた。

「日本のみならず世界中の女性の声を代弁している」との感想も聞かれた。その感想に同意すると共に、日本よりフェミニズムが根強い国柄が見せる伊藤監督への寄り添い方だと感じた。
また、世界最大の日系社会を有し、日本文化の浸透するブラジルとあって、「日本の黙っていることを美徳とする価値観」と性犯罪の関係について考察する意見も聞かれた。
コラム氏は以前、あるブラジル人から「人種とか色々な理由をつけて『差別』は行われるけど、性犯罪は世界中で『無差別』に行われている」と言われ、ハッとしたことを覚えている。性暴力から人々をしっかりと守りきれている国は一つとしてない。権力とはなんなのか、性犯罪とはなんなのかを今一度、世界に問いただしたくなる作品だった。(島田莉奈記者)