会場内は家族連れやコスプレイヤーらでにぎわい、人々の笑顔が溢れる―。昨年11月22〜24日に行われたリオ・グランデ・ド・スール(RS)州の日本祭りは天候にも恵まれ、約8万人もの来場者が訪れた。昨年の大水害の痕跡が沿岸部に残る中、例年通りのにぎわいを見せ、少しずつ街が復興に向かっていることを感じさせた。
地域は昨年5月の大水害発生から、多くの人々が助け合って災害に立ち向かう姿が各地で見られた。RS州の現地日系コミュニティで運営する「RS州日本祭り」も開催が危ぶまれたが、復興作業と並行しながら準備は進められ、予定通り催行された。
2023年に10回目の節目を迎え、会場規模を拡大した。一方で、エステイオ市の展示会場も水害被害を受け、通常通りの開催はできないと誰もが思っていた。同会場は南米最大の農業の祭典「Expo Intel」(9月)を行うなど、RS州の大規模イベントを担う会場の一つ。人の流れも大きいため、復興作業も力を入れ、9月のExpo Intelも開催が決まり、「エステイオ市役所からも日本祭りを開催してほしいという要望があった」と南日伯援護協会役員で、実行委のメンバーでもある森口由美さんは振り返る。
ただ、本番までの道のりは容易ではなかった。祭りを担う運営委員会のメンバーたちも、各々の生活や仕事を不安にさらされつつ、被災した人々の支援も行う多忙な日々を送っていた。それでも祭りの準備を続け、実行委員会の上野慶一委員長は「多くの困難があったが、水が引いた後の状況は特に大変だった。ほぼ全てが失われた光景を目の当たりにし、泥をかき出し、建物の中のものを運び出して処分する必要があった。感染症のリスクもあった」と当時の様子を振り返る。
祭りのテーマも変更した。気候変動などの影響により世界各地で災害が起こる中、自然災害を防ぐために人々に何ができるかを呼びかける目的で新たに「地球にやさしく」というテーマを設けた。大水害やアマゾン、サンパウロなどの山火事といった気候変動や予期せぬ自然災害が世界中で起きていることから、地球への敬意を持って共存していこうという思いを込めた。
これを受けて会場では私立大学Univaleと提携し、「日本祭りで発生したゴミのうち9割のリサイクル・再利用」を目標に分別回収を徹底。会場内で販売された飲み物はリサイクル率が高い缶入り飲料がメインで、飲食ブースも容器を紙製にするなどして協力した家電ゴミの回収コーナーも設けられ、3日間で1000個以上が集まるなど、来場者の関心の高さも感じられた。
被害と復興の様子を伝える南援協のブースも設けられた。各地から寄せられた千羽鶴やメッセージカードなどが飾られ、このうちクリチバ市の日本語学校から寄せられた子ども一人ひとりからの日本語とポルトガル語のメッセージは厚いファイルに収められ、来場者がめくる姿があった。また、ポルト・アレグレ市の日本食材店「光」がデザインし、寄付した復興Tシャツも販売した。
会場内は日本食や太鼓や踊り、コスプレなどのステージ披露、生け花や水引きなどの文化体験などで終日賑わった。上野実行委員長は「災害を乗り越えて元の生活に戻るだけでなく、喜びや交流の時間を取り戻せたことに安心と感謝の気持ちが入り混じっている」と祭りの成功と復興の着実な歩みを喜んだ。
日系人口が州全体で4千人ほどといわれるRS州の日系コミュニティを襲った未曾有の水害を日系社会、ブラジル社会が協力し、再び灯りをともしていく――。盆踊りでゆらめく提灯の暖かい光が、希望ある未来を指し示しているように見えた。(終わり、取材執筆=松田亜弓さん、JICA日系ボランティア)