マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(13)=サンパウロ 梅津久

妊婦は一生解雇できない
 女性の妊娠・お産の雇用保障も厄介な問題である。女性従業員は妊娠が証明された時から、産後6カ月までの通算15カ月間雇用が保障されている。
 妊婦に対してはどんな理由があってもこの期間の解雇は認められていない。極端な例、次から次へと妊娠していれば、いつまでも雇用が保障されるということになる。仕事を良くしないから、従業員削減でと30日間の権利を払って解雇しても、妊娠していたことが証明されると、再雇用しなければならなくなる。
 問題を極力少なくするため、日本では考えられない、妊娠検査が入社、退社時に実施されているが、根本的な解決策ではなく、最近では人権侵害ということで実施がむずかしくなっている。
 ちなみにお産休暇は、お産前の28日とお産後の92日、通算120日が義務付けられている。この間の給与は会社が保障しなければならない。
 また面白いことに、労使協定によって、父親は妻のお産時、5日間の「お産休暇」(男がお産するわけがないが)が認められている。私は50歳(今は66歳)になった今でも妻から次のように言われる。
 「あなたは、私の二回のお産時に病院に来なかったわね。ブラジル人は、前日からずーっと付き添っているのよ。お産の時は傍に付き添っていて、夜はベッドの横で寝ているのよ。だから隣のブラジル人から『あなたには旦那さんいないの?』(ようするに、父なし子の母の意味)と聞かれたのよ」
 私は仕事があったから、二回とも夜病院に連れて行き、家に戻って、翌日仕事をして、夜初めて子供を見た。この様に日本人と根本的に考え方が違うから5日間の休暇が必要なのかもしれない。またこの休暇がないと何時、出生登録をするかわからない位ブラジル人はのんびりしている。
 私の知っている日系2世でひどい人がいた。その夫婦は子供をお母さんに預けて、日本に出稼ぎに行き、一年して、ブラジルで子供を幼稚園に入れようとしたら、出生証明書が見つからない。あわてて日本に電話して聞いたら「実は出生届けを出していない」とのこと。すぐに日本のブラジル領事館に行って、出生届けの委任状を作製し、ブラジルに送り、従兄弟に出生届けを代行してもらって、ようやく幼稚園に入れたという、笑うに笑いないことがあった。(続く)

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