マイゾウ・メーノス(まあーまあー)の世界ブラジル(14)=サンパウロ 梅津久

第8話
メチャ・クチャな労使関係(その2)
一生雇用保障される

 もう一つ、今難しい問題になってきているのが、労働災害・健康障害だ。雇用期間中に労働者がなんらかの労働障害・健康障害を受けた場合、定年退職まで雇用を保障しなければならなくなっている。
 この障害の中で特に難しいのが難聴(耳の聴感劣化)である。入社時に聴力検査を行い、問題のない人だけを採用するわけだが、年一回の健康診断で聴力の劣化が判明すると解雇出来なくなってしまう。
 各企業ではそれぞれ対応策を講じてはいるものの、なかなか簡単には解決されていない。社内で、耳栓を配り、配布時に本人受け取りのサインをとり、教育、指導をして、会社としてはきちんと対応していますという証拠は残していても、一旦仕事を離れれば、街角に騒音公害は充満している。
 大型ミュジックシステムを使ってボリュームを最大に上げた、デスコテッカ(ダンスバー)、各種のパーティー等で、耳が割れそうになる音量のスピーカーの前で何時間も踊ったり、飲んだりと遊び廻って耳が悪くならないはずがない。
 しかし、残念ながらそれを検証する方法がなく困っている。解雇後、裁判所からの呼び出し通達で、「エー、あいつが…」と「開けてびっくり玉手箱」である。弁護士によって、あれやこれやと理由を付けて法外な補償金(たぶん本人は手にしたこともない金額)と再雇用を求めてくる。
 裁判官は「和解しますか?」と聞いてくるが、どっこい、そこはとことん戦うのが会社。負けたら控訴すればよい。何年かけても戦う姿勢を見せるのが会社である。
 ちなみに私は長年オーデオ機器の製造・検査関係の仕事をしてきており耳は非常に良いほうで、ここ20数年はプレス、溶接等騒音の激しい製造現場に勤務しているが、今でも会社では聴力が一番良いほうである。
 しかしボリュームを上げた歪みの多いスピーカーの音にはすぐに頭が痛くなり、我慢出来なくなる為、パーティー等ではスピーカーから出来るだけ遠く離れた位置に席を取り、時間を見計らって、早目に退散している。
 一度友人の誕生日パーティーに招待されて行ったら、そんなに大きな家ではないのだが、玄関口の広場に数百ワットの大型スピーカーと照明を点けて「ドンドカ、ドンドカ」やっている。これにはたまらず、家の裏にある雨よけの屋根の下で簡単な食事をして「すみません、用事がありますので」と逃げるようにして帰ってきた思い出がある。(続く)

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