
トランプ政権による関税引き上げにより、ブラジルには10%の追加関税という比較的軽い負担が課され、相対的には米国市場で競争力が短期的に増す可能性がある。中国が米国製品の輸入を減少させる分、ブラジルの農産物や進展する貿易協定が新たな機会を提供することが期待される。だが、世界経済の不安定さがブラジル経済に与える影響は依然として予測困難で、利益と損失を考慮した上で、世界経済成長へのリスクを踏まえると、最終的にはブラジル経済にマイナスとの見方を強める専門家が多い。7日付BBC(1)が報じた。
多くの経済学者はトランプ関税がインフレを引き起こし、米国経済を冷え込ませる可能性があると予測している。世界貿易機関(WTO)は米国の関税引き上げにより、今年の世界貿易が1%減少すると見込んでいる。
一方で、ブラジルにとっての潜在的な利益も指摘されている。米国市場での他国製品に対する競争が激化する中、ブラジル製品が有利に販売される可能性がある。ブラジルの農産物、特に大豆やソルガムが中国向け輸出増加の恩恵を受ける可能性が高い。ブラジルは2024年に中国との間でソルガム輸出増加を目指す協定を結んでおり、かつて米国にとって大きな市場であった中国向けに新たなチャンスを生み出す可能性がある。
米欧間の緊張が高まる中、欧州連合(EU)とメルコスル間の貿易協定の進展により、ブラジルの農産物等の輸出拡大が期待される。だが、国家輸出振興庁(Apex)のジョルジ・ヴィアナ長官は、世界経済の不確実性と多国間協力の弱体化がブラジル経済にマイナスの影響を与えると懸念する。
ジェトゥリオ・ヴァルガス財団ブラジル経済研究所(Ibre/FGV)のリア・ヴァラス氏は広範な経済情勢に悲観的な見方を示し、「世界最大の経済国が貿易秩序を無視するような措置を取ることは、全ての国にとって悪影響を与える」と結論付けた。
一方、投資顧問会社MBアソシアドスによると、ブラジルは米国よりも中国との貿易が拡大し、特に農産物やコモディティで有利になると予測している。ブラジルのコーヒーや鉄鋼製品など一部の商品については、米国の高い関税が逆に有利に働く可能性がある。
だが、鉄鋼やアルミニウムには25%の関税が課せられており、これらはブラジルにとって重要な輸出品目であるため、関税引き上げが逆風となる。加えて銅や木材にも追加関税が課される可能性があり、懸念材料だ。
トランプ関税は、ブラジルにとって中国をはじめとする他国との貿易関係を強化し、為替レートが低水準を維持する可能性がある。ブラジル通貨は今年、1ドル5・70レアル前後で推移すると予測され、これがインフレ指標である広範囲消費者物価指数(IPCA)の上昇抑制に寄与すると考えられている。
MBアソシアドスのレポートでは、ドル安がブラジルのインフレ率を目標上限である4・5%に近づけ、5・1%程度に抑えると予測。5・5%を超える大幅なインフレの回避が期待されている。
だがC6銀行のエコノミスト、クラウジア・モレノ氏は、為替市場における不確実性は依然として高いと指摘し、危機や不安定な状況下では投資家がドルのような安全資産を選好する傾向が強まり、ドルが強くなる可能性があると見ている。モレノ氏は「今後の展開についての予測は難しく、もしグローバル経済がリセッション(景気後退)に突入すれば、ドルが強くなるかもしれない」と警鐘を鳴らした。