9日のブラジル株式市場は、前日に見られた楽観ムードが一転し、主要株価指数のボベスパ指数が大幅に下落した。終値は前日比1.14%安の12万6,344.70ポイントとなり、1,451.23ポイント下落。外国為替市場ではドルが買われ、レアルは対ドルで0.92%下落し、1ドル=5.899レアルとなった。米中の通商摩擦激化が投資家心理を大きく冷やし、世界的にリスク回避の動きが広がった。
背景にあるのは、米中間で続く「関税戦争」の再燃である。米国のトランプ前政権が前日、一部関税の見直しを発表したものの、合計では中国製品への課税が145%に達することが明らかとなり、根本的な緊張緩和には至っていない。欧州市場では前日の流れを引き継ぎ株価が上昇したが、ニューヨーク市場では主要指数がそろって大幅安となり、ブラジルを含む新興市場もこれに連動する形で売りが先行した。
米中「決裂の瀬戸際」、経済構造の根幹揺るがす
アジア・ソサエティの米中関係センター長であるオービル・シェル氏は「数十年にわたって丁寧に築き上げられてきた布がほどけつつある」と述べ、「両国関係は決裂の瀬戸際にある」と警鐘を鳴らす。米中の通商関係は21世紀における世界経済の成長を支えてきた基盤であり、その動揺は世界全体に波及しかねない。
今回の対立は、2018〜2019年の「第一期関税戦争」を凌ぐ規模とスピードで展開されている。当時は14カ月かけて段階的に関税が引き上げられたが、今回はわずか数日で125%もの関税が発表され、中国側も即座に報復措置を発動し、関税率を84%まで引き上げた。
一方、米著名ヘッジファンド、ブリッジウォーター創業者のレイ・ダリオ氏は「今回の混乱は、投資家にとって一種のトラウマとなり、米国の信頼性に対する不信感が高まった」と分析する。
CPIは落ち着きも、関税の影響は今後本格化へ
米国では3月の消費者物価指数(CPI)が予想外のデフレとなるなど、インフレ懸念は一時的に後退したが、経済学者らは「関税の影響はまだ織り込まれていない」と警戒を続ける。Suno Researchのチーフエコノミスト、グスタボ・スン氏は「関税ショックの影響は今年後半からインフレ指標に顕在化するだろう」と述べている。
そのため、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに踏み切るとの観測も強まっているが、FRB自身は「インフレリスクに全力で対応する」と強調しており、金融政策の行方はなお不透明である。
ブラジル市場では「Vale」が健闘、「Petrobras」は急落
ブラジル国内では、2月のサービス業指標が予想を上回る好調ぶりを示したものの、米中対立による外部環境の悪化が市場全体の重しとなった。鉄鉱石価格の上昇を受けて資源大手Vale(VALE3)が1.79%高となった一方、原油価格の急落を背景に、国営石油大手Petrobras(PETR4)は6.22%安と大幅安に沈んだ。
同様に、石油関連のPRIO(PRIO3)は8.13%安、Brava Energia(BRAV3)は6.82%安と軒並み売られた。セクター別では、小売と食肉関連銘柄がまちまちの展開。中でもMagazine Luiza(MGLU3)は前日比4.5%高と続伸し、Marfrig(MRFG3)も1.63%高と底堅かった。
また、水道公社のSabesp(SBSP3)は、巨額の支払い命令(プレカトリオ)の受け取りが好感され、1.92%高で取引を終えた。一方、航空会社Azul(AZUL4)は新たな債権者合意を発表したにもかかわらず、4.44%安となった。
「選択の時代」、分断深まる世界経済
米中両国が世界経済において中心的役割を担っているだけに、その分断が各国に及ぼす影響は計り知れない。米中いずれかの陣営に付くよう各国が迫られる「選択の時代」が訪れる可能性もある。
中国は既に米市場依存からの脱却を進めており、今年は600万台の電気自動車(EV)の輸出を見込むが、その多くは米国を除く市場向けである。
米ゴールドマン・サックスは9日、中国の2025年成長見通しを従来の4.5%から4%に下方修正した。国内では不動産不況と地方政府の財政難、若年層の失業率上昇といった課題も重なり、中国経済の減速感は鮮明となっている。
また、米国でも中小企業を中心に混乱が広がっており、電子体温計を製造・販売する米GLA Agricultural Electronics社の経営者は「中国市場から事実上排除された」と嘆いた。中国から部品を仕入れ、中国に製品を輸出していた同社は、報復関税の影響でビジネスの持続が困難な状況に追い込まれている。
新冷戦と経済の不確実性
関税という名の「新冷戦」が、政治だけでなく経済の分野においても深刻な影響を及ぼしている。世界の投資家は、経済指標よりもホワイトハウスの次の動きに神経をとがらせている。何も動きがないことすら「安堵材料」となる現状が、いかに異常かを物語っている。