
世界的に拡大を続けるラーメンブームの中、ブラジルでも若者を中心に人気が高まっている。ブラジルのトライオン社(大野優真社長)は、株式会社トライインターナショナル(田所史之社長、千葉県本社)とジョイントベンチャーを立ち上げ、異色のラーメン店『SORA』を6月のオープンに向けて準備している。
父の仕事の関係で1歳から当地に住んでいる大野氏(24歳、大阪府)は「ブラジルでもラーメン文化を伝えたい」と話す。自らが過去5年間にわたり人気インフルエンサーとして活動、TikTok(yuma_ono)のフォロアーは490万人、ユーチューブは71万人、インスタグラムは84万人などを誇り、ポルトガル語で強力に発信している。
加えて、ゼツリオ・バルガス財団の経営学部在学中からスタートアップで事業に取り組んできた経験を生かし、SNSを駆使したマーケティングを展開。現地の若年層に向けた斬新な発信で、ラーメンを新たな〝国民食〟として根付かせることを目指している。
だから『SORA』は単体の飲食店ではない。両社は同店をモデルに、フランチャイズ展開を視野に入れており、ラーメンという日本の食文化をブラジル全土に広めることを計画している。その過程で、雇用の創出や人材育成にも力を注ぐ方針だ。
こうした構想の背景には、田所氏の原体験がある。2008年、田所氏は「日本人移民の方々に日本本国の味を食べていただきたい」とサンパウロ市の大和グループと提携し、『ラーメン和』を東洋人街・リベルダーデに開業。しかし直後にリーマンショックが起こり、日本で職を失った多くの日系ブラジル人が帰国を余儀なくされた。その姿を目の当たりにした田所氏は、「いつか彼らの受け皿となる場をつくりたい」との思いを抱いたという。

今回の『SORA』は二年近く前からオープンに向けて準備を開始。店舗はパウリスタ大通りの一等地、メトロのトリアノン・マスピ駅側の美容品小売店『SONEDA』に併設される。現在、現地スタッフへの技術と接客の指導を徹底するため、日本から経験豊富なスタッフが派遣されている。
特に4月4日から田所氏と共に来伯した堀尾藍以(あい)さんと高瀬陽美(はるみ)さんの2人は、田所氏が9日に一時帰国した後もサンパウロ市に残り、引き続き現地スタッフへの指導にあたっている。現地従業員が日本のクオリティを再現できるよう、調理法だけでなく、サービスの細部に至るまで丁寧な指導が行われている。
なお『SORA』という店名は、トライインターナショナルが国内外で味噌を主力に190店舗以上を展開するラーメン店のグループである東京・高田馬場の『俺の空』に由来する。同店は2002年に日本テレビで放映された「全国民が選ぶ美味しいラーメン屋さん列島最新99」で全国一位に輝いた名店だ。
田所氏は「空には無限の可能性がある。ブラジルの若者たちにも、夢と挑戦の舞台に立ってほしい」と話す。ネーミングの背景には2008年にブラジルを訪れた際、「東山農場で見上げた青空があまりにも印象的で忘れられなかった。その空を見ているうちに、〝味噌を世界に広めることが自分の使命だ〟と感じるようになった」と振り返る。
ブラジルにおけるラーメンの新たな展開は、食文化の架け橋としてだけでなく、次世代の働き手に希望を届ける一歩となりそうだ。