ブラジル神楽団=広島の伝統芸能をブラジルに=世界唯一の海外神楽団=文責・写真提供=ブラジル神楽団コーディネーター=橘愛子

ヤマタノオロチ

 1969年に発足するも途中で下火に

 広島県加計町からブラジルに移民した細川晃夫氏のお父様が、1969年、息子を訪ねて訪伯されました。その歓迎会の席上、土産の神楽の鬼面をかぶり、喜んで皆が舞はじめたのがきっかけとなり、細川氏の他、双三郡作木町出身の井原仁一氏、西本茂氏を中心とした有志らで「広島神楽愛好会」が発足しました。太鼓などの鳴り物、神楽幕、衣裳もすべて手作りでした。その一部は、現在広島市に移民資料として寄贈されています。
 その後「ブラジル広島神楽保存会」と改名され、県人会から宮島の鳥居のついたビロードの幕も寄贈され、その記念の神楽公演も県人会館で行われました。
 発足当時は、広島県出身者が主でしたが後年、島根県人の古田川英雄親子も参加しました。何年もの間、サンパウロ市内、近郊、また遠くはレシフェまで公演したこともありましたが、日本への出稼ぎブームの到来でメンバーが減り、次第に下火になっていました。
 その消えかかっていた神楽の火をなんとか復活させたいと2004年、細川晃夫、古田川英雄、道菅武保、岩見四朗、角川英明氏等が中心になって、若い人を募集し新しいグループを発足させ「塵倫」「八岐大蛇」などの演目の指導を始めました。
 その年には、広島県旧高宮町やほかの町村から、新しい神と鬼の衣裳、また大蛇一頭の寄贈を受けました。そして技術の向上を図るために、2005年3月に広島県安芸太田町の津浪神楽団より元団長の尾坂秋三、団長の末田健治両氏を3週間指導に招くことができ、その成果をサンパウロ市文化センター、サンパウロ日系文化協会、カンピーナス日系文化協会で公演し好評を博しました。
 それからも「八幡」「恵比寿」と演目を広げ、2008年1月には2週間の短い間でしたが、島根県益田市の神和会より4人の先生方においで頂きました。その時多くの衣裳のご寄附も頂きました4人の方には、石見神楽の「黒塚」を習うことが出来、サンパウロ市文化センターで「八岐大蛇」と合わせて「黒塚」の初公演をしました。

1980年リベルダーデでの路上公演

 2015年に広島神楽が再来伯、ブラジル人観客を魅了

 これで少しずつ広島神楽、石見神楽も習えましたので名称を「ブラジル神楽保存会」と改めました。その後2013年11月、海外で唯一神楽を伝承している会として島根県益田市で行われた「ワールド神楽フェスティバル」に招待していただきました。地元の久々茂神楽社中の方々に大変お世話になりながら、数日間最後の仕上げを見ていただき、島根県芸術文化センター「グラントワ」大ホールでの公演には応援に駆け付けてくださった広島日伯協会の方々はじめ、大勢の日本のお客様の前で石見神楽の「黒塚」を披露出来たのは本当に光栄なことでした。
 またフェスティバル中に、沢山の日本各地からの本場の神楽を鑑賞できたことは、若い3、4世のブラジル人にとっては感動の連続でした。益田でのプログラムには地元の学校訪問もあり、片言の日本語を交えパワーポイントを使いながらブラジルの紹介、また恵比寿舞の披露もして、子供たちと楽しく交流ができました。
 ブラジル移民百年祭に続き、2015年ブラジル広島文化センター60周年記念のお祝いに、再度日本の広島神楽が来伯し、ブラジル日本文化福祉協会(文協)大ホール一杯のブラジル人観客を大いに魅了しました。その公演の幕間に我々ブラジル側も恵比寿舞を披露できました。また広島から来られた神楽団員の方々に神楽技術をお習いする機会もあり楽しく交流をすることができました。
 2016年初頭よりグループ名称を「ブラジル神楽団」(Grupo Kagura do Brasil)としました。
 2016年11月、ブラジル島根県人会の60周年記念の折、私達が2013年にお世話になった益田市の神和会の神楽の皆様が来伯。記念式典での公演、またサントス厚生ホームや憩の園への慰問公演に友情出演し神楽への理解や技術を更に広げることができました。こうして2005年、2008年、2015年にいらした広島神楽団(広島県)、また2008年、2016年にいらした石見神楽社中(島根県)の方々と今も引き続き交流をつづけております。

 JICA研修で若者が本場を体験

 2017年、ブラジル神楽団の若者4人は初めて日本で神楽研修をする機会を得ました。JICA研修プログラムに応募し、約40日間広島県安芸高田市神楽門前湯治村に逗留しました。それは広島県安芸高田市神楽協議会のご厚意によるもので、協議会会長久保団長の率いる横田神楽団には楽舞とも懇切丁寧にご指導いただき、初めて本場の神楽も沢山見せていただき、ブラジルの若者には大いに勉強、刺激になり感謝に堪えません。
 その後もJICA神楽研修には2019年3名、また2023年1月には3名が訪日して研鑽した結果、ブラジル神楽団の楽舞共に質を向上させることが出来、団員一同喜びに堪えません。2025年にはまた2名の研修生を送りたいと思っています。
 2022年現在、ブラジル神楽団団員は13名で、通常日曜日の朝に広島文化センターで練習をしており、年約8回の公演をサンパウロ市内または近郊の市で行われる各種の日系祭り、過去の例も挙げれば、ブラジル日本文化福祉協会の「芸能祭」「文化祭」、ブラジル都道府県人会連合会の「日本祭り」、オザスコ市の「日本祭り」、モジダスクルゼス市の「秋祭り」、ガルサ市の「桜祭り」、アチバイア市の「花と苺祭り」等々で行っています。
 遠いところでは2008年・2018年のベロオリゾンテ市、2010年レジストロ市及びマリンガ市、2011年リンス市、2012年・2018年にはサルバドール市、2023年・2024年にはブラジリアで公演いたしました。また2009、2010年にはブラジルのテレビ局SBTの番組「Qual é o seu talento」(あなたの才能は?)に招かれました。
 ブラジル神楽団の魅力は年少者と年配者が交って練習し、基本を大事にしながら一緒に楽しく演目を仕上げていくことです。1世の指導者が次第に少なくなっていく現在、これからは3、4世、またブラジル人が中心になりますが、先輩から教わった神楽の基本を大事にしながら、また所蔵している道具、衣裳を大切にしながら、これからも長くブラジル風の神楽を演じて行ってくれればと願っています。

2025年4月

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