
ラ米文学を代表する文豪、ノーベル文学賞受賞作家のマリオ・バルガス・リョサ氏が13日、出身地のペルーで家族に見守られながら静かに息を引き取った。行年89歳。死因は明かされていない。(1)(2)
リョサ氏は政治、権力、愛といったテーマを鋭く描き、その深遠な洞察で広く知られ、代表作に『都会と犬ども』『緑の家』、ブラジルで起きた実在の事件「カヌードスの乱」に着想を得て書かれた『世界終末戦争』などがある。
1936年にペルーのアレキパに生まれ、若い頃からその卓越した才能が知られていた。彼の作品は60年代のラ米文学の黄金時代に、文学復興運動の中心的な役割を果たし、政治や社会に対する鋭い視点と強いメッセージ性を特徴とする。2010年にはノーベル文学賞、さらにセルバンテス賞やアストゥリアス皇太子賞など数多くの栄誉に輝いた。
彼は現実の政治にも積極的に関与した。90年にはペルー大統領選に立候補し、アルベルト・フジモリ氏に敗北。この経験を経てスペインへ移住し、作家活動を継続しながらも、ラ米政治情勢への発言を続けた。
その名声は文学界にとどまらず、彼の人生ドラマも多くの人々の関心を集めた。特に注目を浴びたのは、76年に起きたコロンビア人作家のガブリエル・ガルシア・マルケス氏との間の「一撃事件」だ。ガルシア・マルケス氏の顔に、リョサ氏がパンチを見舞い、二人の長年の友情を断絶させたと言われている。
政治的立場の対立が原因と見られていたが、この時ガルシア・マルケス氏がリョサ氏に発したとされる「(リョサ氏の妻である)パトリシアに対してお前がしたことは、許されるべきではなかった」という言葉からは、二人の間に個人的な争いがあったことが示唆された。
この件について、ガルシア・マルケス氏の死後の2014年に、その暴力の原因については決して公にしないと、二人で「紳士協定」を結んでいたことをリョサ氏は明かした。リョサ氏は「ガルシア・マルケスと私はお互いの関係に関してゴシップを助長しないという約束をしていた。彼はその約束を守りながら死に、私もその約束を守り続けるつもりだ」と語り、その約束を守り抜いたことを強調した。
リョサ氏の私生活は、彼の文学同様に波乱に満ちていた。最初の大恋愛は、自分より14歳も年上のボリビア人作家フリア・ウルキディ・イリャネス氏との関係であった。フリア氏はリョサ氏の叔母にあたり、この関係は当時非常にスキャンダラスであった。この結婚は家族内で大きな論争を引き起こし、リョサ氏と父との関係を悪化させる原因となった。
2人は55年に密かに結婚したが、リョサ氏はフリア氏のいとこであるパトリシア・ウルキディ氏と関係を持ち始めたことで、9年後に離婚。この結婚はリョサ氏が77年に発表した『フリアとシナリオライター』という小説に描かれ、一方のフリア氏も83年に回顧録『バルギータスが言わなかったこと』を出版し、リョサ氏を浮気者で不誠実な人物として描いた。
フリア氏との離婚から1年後の65年にリョサ氏とパトリシア氏は結婚し、3人の子供をもうけた。この関係も2015年にスキャンダルを伴って終わりを迎えた。彼らの結婚50周年記念の祝いの最中に破綻したことは大きな話題となった。
リョサ氏の最も注目された恋愛関係の一つは、スペインの有名人イサベル・プレイスラー氏とのものだった。二人は86年にインタビューを通じて知り合い、リョサ氏の死に至るまで関係が続いたとされる。リョサ氏はインタビューで「私が恋をしている女性について関心を持たれることは仕方がないことだ。もしその代償を私が支払うべきなら、私はそれを受け入れる」と語っていた。