このジボーダンに勤務しているにもかかわらず、フラッカローリ社のヴィットリーノ社長は亡くなるまで毎年クリスマスには私の子供たちへのプレゼントを抱えビラ・オリンピアの長屋を訪ねてくれた。リーノ氏を除き、今はフラッカローリ家の人びとはすべてサンパウロ市内のアラサ墓地に葬られている。
ジボーダンでは最初、少量品合成香料・天然香料の製造と大量品の製造試験を行うラボの課長として数多くの合成・抽出の仕事が任され、毎週のように新しい仕事があり楽しいことであった。
その後製造部長に昇格、最終商品である調合香料を除く全部の原料製造の責任者となった。一時は品質管理部長を兼任した。
十数年後サンパウロ大学の応用化学科出身の若い技師に後を譲り、研究・開発部長として新製品の製造研究に専念し、化粧品用香料(主として合成)研究室・食品香料(主として天然)研究室・特殊品研究室の3課を率い、多数の助手に手伝わせて同時進行で開発を行った。
30年間の在職中に合計約500件のテーマに挑戦し、ブラジル国では初めてである300種以上の新製品の製造を実施して市場に出荷し、またスイス本社およびグループの各国支社に特許・ノウハウを提供した。これらは、殆ど総ての芳香化合物、つまり、テルペン類、 脂肪族、芳香族、脂環化合物のアルコール類、アルデヒド類、ケトン類、窒素化合物、硫黄化合物などまで、天然物では香辛料・コーヒーを含めた芳香植物よりの香味抽出や酵素を利用した牛肉、チーズ、海老などのインスタント食品製造用の濃厚香味料など。
化粧品用の乳化材の総て、それに加えて香料以外の日焼け止め化粧品用、家屋塗装用ペンキ類及びハウス用ビニールシートの寿命を延ばすための各種紫外線遮断剤や皮膚用殺菌剤なども含まれており、これらのものは製法特許が取得されて現在も世界各国で使われている。(総ての研究リストは別表を参考のこと)
在職中には不測の停電・断水による2回の爆発事故などに遭遇したり、倉庫から誤って渡されて使われた濃厚な酸による装置の破壊と流出による建屋の汚染などの事故に遭遇したが、他の部(食品香料調合部や施設部、倉庫など)で起こったような人身事故は皆無であったことは誠に幸運であったと言える。