ずっと長い間、私のうちにわだかまりがありました。100年を越したブラジルの日本移民史でいつも語られる辛酸をなめた話。コーヒー園からの逃亡、コンデ・デ・サルゼーダス街のポロン暮らしの話。邸宅に女中奉公や下男勤めをした話。いつでもいつも視点は日本人側からの、つまり内側からのものです。たとえば家族総出で野良仕事をする移民の姿はどんな風にブラジル人に映っていたのでしょうか。コンデ街の日本人を見て彼らはどう感じていたのでしょうか。下男や下女として働く日本移民を見てどんな日本人像を描いていたのでしょうか。そう模索しながらブラジル文学の本を読みはじめてもう何年もたちました。すると、その多くは戯画的ではありますが、かなりの作品に日本人が扱われていることが分かりました。それらの作品を、その時代背景を捉えながら、日系社会と絡み合わせて語ってみようというのがこの小文の意図するところです。