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連載小説=自分史「たんぽぽ」=黒木 慧=第55話

06/10/2022

 一九八〇年三月十三日、夜の十二時発、ニューヨークからアンカレッジ経由、三十時間後に眼下右手に日本の海岸が現れた。それに沿って南下、次第に高度が低くなって来ると、軟らかな春の陽ざしに輝く日本の田園が眼下に拡がっていた。いつのまにか涙が湧いてきた。
 ゴォーと言う車輪が地面に接する音がして、滑走のあと飛行機が停止した。乗客の間に拍手が起こった。その頃は無事に飛行を終えた時は、皆でその無事を感謝する気持ちで拍手を送るのが常であった。一九八〇年三月十五日 朝八時三分であった。
 重いトランクを引きずりながら、入国検査を済ませ、待合ロビーに出ると、私のすぐ上の姉、弥栄香...

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