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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=72

15/11/2023

 山路はシャツの袖で顔の脂汗を拭きながら皆を見渡す。永く運動部長で鳴らした男である。しばらく沈黙したが、
「カデイアで沈黙していても苦痛のもとだよな。何か遊びごとでもやろう」
 と言葉をやわらげたが、もとより遊び道具などある筈もない。
「俺が皮切りに、何か一節うなるか」
 山路は壁にもたれ、『佐渡情話』の浪曲をはじめた。低い声だが嗄れていてうまい。
「ねえ、オミッちゃん。柏崎へ帰ったら私のことなど、すっかり忘れてしまうんでしょうね」
 隅の方で誰かが、かよわい娘の声をまねた。
「うまいぞ」
 皆が拍手して、沈んだ留置所の空気が少し明るくなった。くよく...

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