《記者コラム》9月は「自殺予防月間」=自殺未遂の入院者31人/日

9月10日の「国際自殺予防デー」にちなみ、ブラジルでは9月を「黄色い9月」と呼び、自殺予防月間としている。
自殺予防のシンボルカラーが黄色なのは、1994年に息子が自殺し、心に痛手を受けた米国の夫妻が葬儀の日に、黄色い縁取りをしたカードに「必要なら助けを求めて」と書き、参列者が手に取れる葬儀会場のカゴに置いたことがきっかけだ。車の修理が好きで、自分でペンキを塗った黄色いフォード社のムスタングに乗っていた息子が、精神的に病み、自殺した時、彼の痛みや悩みに気づけなかったことを悔やんだ両親が、自殺防止に役立てばと思って用意したカードは、世界的な取り組みに広がっていった。
国連は2003年に9月10日を自殺予防デーと決め、このエピソードにちなんだ黄色をシンボルカラーとした。イエローリボン運動は47カ国に広がり、ブラジルも2015年にこの運動を採用した。
先の夫妻は30年経っても息子を失った痛みは消えないと語る一方、自殺予防への取り組みの広がりを喜んでいる。この活動で自殺を思い止まった人は推定5千人とされている。
ただ、自殺予防は容易ではない。他者に助けを求めることを良しと考えられない人や、助けを求められる場所や人を知らない人がいるためだ。
このことは、ブラジル緊急医療学会が11日に発表した2023年に入院した自殺未遂者は1万1502人で、2014年の9173人より25%以上増えており、1日平均31人が入院したとの報告でも明らかだ(11日付アジェンシア・ブラジル(2)参照)。
自殺未遂者に最初に接することが多い救急医達は、精神的に不安定になり、助けを必要としている人を収容できる場所や、彼らに向き合って心の中の痛みや悩みを吐き出させるための訓練を受けた専門家の養成が急務と言うが、これは一朝一夕では実行不能だ。
他方、自殺者や自殺を考える人達に関する研究も進んでいる。一例はサンパウロ総合大学がアラゴアス州の公立大学の保健関連分野の学生503人を対象にして行った調査で、中~重度のインターネット依存者は自殺念慮がより強いことが確認された(4月5日付学内ジャーナル(3)参照)。
無制限なインターネット使用がうつ病や精神高揚、自殺念慮に繋がる可能性があることは、米国で起きた自殺や麻薬のオーバードーズで子供を失った親達がSNSを訴えたことからもうかがえる(4月4日付BBC(4)参照)。
SNSの非現実性などを知り、自分で利用を制限する人もいるし、SNSが自殺を思い止まる原因となる例もあり、SNSだけを悪者とすることはできない(10日付アジェンシア・ブラジル(5)参照)。だが、皆がインターネット依存の怖さを知り、周囲の人が依存症を起こさないように注意を促すことも必要だろう。
子供や友人と話していないと思う人、家族や知人を失って失意の中にいる人を知っている人は、本人と直接会い、互いの胸の内を明かしてみるのも良いのではないだろうか。その一歩が何十年も続く痛みを防ぎ、和らげてくれるかも知れないのだから。(み)
(4)https://www.bbc.com/portuguese/articles/cz9zne31rvko 4月4日