ヴァロール社説=米中競争で変わる中南米=ブラジルは自立性維持戦略を

中南米経済への影響力を巡る中国と米国の争いが激化している。ブラジルは近年、BRICSを通じて中国との関係を深める一方、米国との政治的距離が広がっている。米国は中南米地域を影響下に置いてきたが、中国の経済的台頭や同地域への融資やインフラ投資強化により、米国の存在感は薄れてきている。だが、中国の脅威は米国だけに止まらず、ブラジルにも広がっている。25日付ヴァロール紙社説(1)がその影響を指摘している。
米国は数十年間にわたり、経済力や貿易で世界に君臨。中南米は自国の政治とビジネスの「裏庭」と見なしてきた。
だが、中国が経済大国として急速に台頭したことで様相が一変。中国はブラジル、アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、ペルー、ウルグアイの南米9カ国にとって最大の製品供給国となり、米国を追い抜いた。
だが、この「中国の侵攻」は、米国を排除しただけではなく、ブラジルにとっても近隣諸国への輸出におけるシェアを失うという結果を招いている。ウルグアイを除くこれらの国々の今年1〜8月の輸入におけるブラジルのシェアは、前年の13・2%から11%に減少。一方、中国のシェアは22・1%から23・4%に増えている。
物資供給国としての中国が占める圧倒的な地位は、米国との政治的、商業的、技術的な争いにおいて、新たな地政学的構図を生じさせ、多くの疑問も引き起こしている。米国の新大統領が誰になっても、対中貿易には制約が設けられると見られている。
米国は戦略の一環として、中国での生産を米国や近隣諸国(ニアショアリング)、または信頼できる国々(フレンドショアリング)に移行させることを重要視しており、中南米諸国をその候補地に挙げている。
だが、これらの国の対外貿易は中国からの供給に大きく依存しており、米国と中国の間での対立や圧力に対しても、一方に肩入れせず、自国の利益を最優先に考える姿勢を取る傾向がある。米国やカナダとの自由貿易協定を持つメキシコでさえ、中国が第2位の供給国であり、中国企業が拠点を置くマレーシアやベトナムもメキシコへの主要供給国の上位10カ国に入っている。
中国は中南米での影響力拡大のため、インフラ整備に関する投資や融資を含む包括的なパッケージを提供しており、国の成長に不可欠な原材料や農産物へのアクセスを可能としている。一方、米国はこの地域への優先順位を下げ、投資や大規模拡大計画を中国に移行させている。
中国は現在、世界銀行や国際通貨基金(IMF)よりも多くの資金を貸し付けており、5年前の時点でも新興国や発展途上国への融資額が3800億ドルを超えていた。
中国の「一帯一路」構想には中南米の21カ国が参加している。ブラジルは同構想に参加していないが、中国からは電力部門などに多額の資金提供や融資を受けている。
政治的な支持獲得は、米国と中国が競合相手に提供する利点に大きく左右される。中南米地域の戦略的鉱物資源は両国にとって重要で、探査や開発に必要な資源でもある。また、米国が中国からの投資を再移転すれば重要産業が南米に持ち込まれ、雇用創出や賃金の向上、輸出の増加に加え、デジタル分野の先端技術の移転も期待される。
中国と米国の間に新たな経済的境界線を引くことは難しく、各国の将来的な同盟関係も不透明だ。ブラジルのように米国との伝統的な関係を保ちつつ、中国との商業的パートナーシップを築く国は、自律性と独立性を維持する戦略がより有利となる。