7月下旬にパラグアイ唯一の和牛農場を訪問し、その道中にアスンシオンの在パラグアイ日本国大使館の中谷好江駐パラグアイ特命全権大使を訪ねて同国の魅力について聞いた。中谷大使は2015年12月に同大使館参事官としてパラグアイに赴任、翌年には同公使参事官(~2018年2月)、2020年9月より現職。今年3月のラミレス外務大臣の訪日時にも同行し、同大臣に「パラグアイのパラグアイ大使」と言われるほど、パラグアイで日本の顔を務めるだけでなく、日本に向けてパラグアイの魅力を熱く的確に発信する姿が印象的だ。(取材=大浦智子)
治安及び制度的ストレスの低さ
中谷大使から最初に手渡されたパラグアイの基本情報資料に関して、「大統領府の写真を見て気づくことは何ですか」と質問され、物々しい塀もなければライフルを持った衛兵もいないことに気付いた。大使曰く「誰でも入ろうと思えば入れる。逆に言えば、そのくらいテロの恐れもなく治安が良いという証拠」だという。
実際にアスンシオンの市街地を歩いても、ホテルのフロントに荷物を預かってもらっても、サンパウロと違って警戒させられない「安心感」があった。市街地には外の看板に少しでもお得感をアピールするかのように、主要通貨との為替レートを堂々と表示した両替所が各所で営業している。サンパウロの分かりにくい店構えとは差がある。
「日系企業が海外に進出する時、治安的ストレスや制度的ストレスが低いこと」は魅力の一つになる。例えば、パラグアイとブラジルの税率を比較すると、法人所得税(10%未満と34%)、個人所得税(10%と27・5%)、付加価値税(10%未満と25%)という違いが明確だ。その他の租税・税制優遇策では、外国企業の活動を助ける複数の免税があり、マキラ制度による輸出は過去10年で6倍に利用が増え、欧米企業は一足早くパラグアイでのビジネスに着手してきた。
マクロ経済において、2023年5月のインフレ率は0%、通年は3・7%、対米ドル為替相場の変動は少なく、現通貨グアラニーが発行されてから70年間デノミは一度も実施されていない。外貨準備高も十分。直近10年間の経済成長率は良好で、干ばつやコロナ禍の影響で世界中の国々が大きくマイナス成長を示した年でもマイナス1%未満で、アルゼンチンのように2020年のマイナス9・9%の翌年にはプラス10・3%となるような不安定さはなく、企業にとって中長期的な計画が立てやすい。
“超”親日国なパラグアイ
「『日系人は懸け橋』という言葉は好きでない。なぜなら、日系人は各国でしっかりと根を張って移住先の国の発展に寄与し、懸け橋以上の大きな役割を果たしてこられた。私がパラグアイに来てから居心地よく過ごせてきたのも、日系人の皆さんが勝ち取られた信頼のお陰」と話す中谷大使は、パラグアイを〝超〟親日国という。
パラグアイは南米唯一の台湾承認国で、日本とは普遍的価値を共有している。過去70年、35年間の独裁政権時代も含めて一般市民の意識は中道右派で、立場も一貫している。少なくとも、この4年近く国際舞台においても日本の政策を100%支持してきてくれ、「日本と同じ方向を向いた国」である。
公的債務の割合は南米で最も低く、目先の利益にもなびかない。2022年上半期にはパラグアイの外相がロシアのウクライナ侵攻に対し、牛肉の主要輸出先国だったロシアとの貿易額が減少するのを承知で、「一切れ肉のために魂は売らない」と非難した。(続く)