小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=51
青年は、津子のすぐ横に馬をすすめて、
「……若しや、律子さんじゃないか」
と、馬上から半身をかがめてのぞきこんだ。
「そうですけど……」
律子はわざと他人行儀に答えた。
「やっぱり律子さんだ。隆夫ですよ」
隆夫は馬から降りた。帽子のつばにちょっと手をふれて挨拶した。その顔は忘れもせぬ隆夫のものだったが、以前より日焼けして、どこどなく粗野に見えた。
「久しぶりね。すっかり逞しくなったみたい。今、どちらに……」
律子は、我にかえって言った。
「ポルトガル人のコーヒー農場なんだ。今度ここに郡道が通じたから、この植民地は近くなった」
「あれから...
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