ベネズエラ=問われるブラジルの調停能力=隣国を批判しないルーラ

【既報関連】ベネズエラが3日の国民投票で国民の賛同を得たとして進めているガイアナのエセキボ地域(ベネズエラ側名称ガイアナ・エキセバ)併合への動きが国際的な波紋を広げており、緊張感もいや増しているが、地域覇権国のブラジルがベネズエラ国内の動きをけん制できずにいることに対する不満や懸念の声も出ている。
ベネズエラは国民投票で95%(一部の報道では97%以上)が同地域併合に賛同したとして、エセキボ地域をガイアナ領とする国際合意にも反する行動を加速。5日には同地域を自国領とする地図を公表し、ガイアナ・エセキバ州創設のための法案を国民議会に提出。同国の石油公社PDVSAに同地域での石油探査許可を求め、一方的に統治者を決めるなどの暴挙に出た。
ガイアナは国際司法裁判所に訴えて国民投票阻止を試みた上、国連安全保障理事会に訴える姿勢を見せ、米国の支援も求めた。
7日付エスタード紙など(1)(2)によると、ジョージタウンの米国大使館は7日、米国軍がガイアナ国防軍と共にエセキボ地域で軍事演習を行うと発表し、両国間の軍事協力関係改善と地域協力を目的とした「日常的な作戦」と説明した。6日付CNNブラジル(3)によると、ベネズエラ政府は6日、ガイアナが米国軍のエセキボ地域駐留に青信号を出したことを無責任な脅迫行為と批判していた。
ベネズエラによる同地域併合の動きの加速は、同地域とガイアナ沖に埋蔵量が豊富な油田があり、ガイアナが今年、38%の経済成長を遂げる見込みであることや、大統領選を控えていること、中南米での混乱発生は、同国に武器や戦闘機を提供し、経済関係も強化しているロシアを間接的に支援できることなどが原因と見られている。
ベネズエラがエセキボ地域は英国の統治下にあったガイアナ(英領ギアナ)の領土と認めた1899年のバリ仲裁裁定を認めず、ガイアナの独立直前の1966年2月に英国とベネズエラ、英領ギアナの3者間で調印したジュネーブ協定も無視して、法的拘束力のない国民投票を行ったことや、同地域併合への動きに神経をとがらせているのはブラジルも同様だ。
だが、ブラジルは中立主義である上、7日付エスタード紙(4)によると、現在はベネズエラとガイアナの駐在大使不在で、具体的な仲裁行為は行い難い。国民投票前には外交特別顧問のセルソ・アモリン氏がベネズエラに赴き、武力行使回避も求め続けているが、ルーラ大統領自身はベネズエラの行動を批判する声明を出しておらず、通常の3倍の兵力を国境地帯に配備した軍からも不満の声が出始めているという。
6日付G1サイトなど(5)(6)によると、ガイアナの大統領がルーラ氏が調停に乗り出すことを望んでおり、ルーラ氏の支持も得ているという。
7日付G1サイトなど(7)(8)によると、ルーラ大統領は7日のメルコスル首脳会議で、ベネズエラ/ガイアナ間の緊張が高まっていることへの懸念を表し、外交努力の必要を強調。メルコスルも距離を置くべきではない、南米には戦争は不要と説いた。マウロ・ヴィエイラ外相も6日のメルコスルの会議で、「南米は平和を保つべき」と説いたが、ベネズエラに届くかは不明だ。
ブラジルは国連安保理議長国やメルコスル議長国を歴任し、G20議長国にも就任など、外交力を発揮する機会に恵まれたが、7日付フォーリャ紙サイトなど(9)(10)によると、これは同時に、ルーラ氏やブラジルにとっての外交力のテストとなった。
ブラジルは安保理議長国の期間中、イスラエル/ハマス間の抗争に対する和平案をまとめきれなかった上、昔はブラジル領でもあったエセキボ地域(7日付G1サイト(11)参照)では政治的、経済的に中立の立場で仲裁できるはずのベネズエラを抑制できないまま、メルコスル議長国の座を降りることになり、外交力への懸念や不安も高まっているようだ。