site.title

小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=90

2024年2月6日

 母は手術によって死亡した知人の誰彼の名をあげ、自分もその中に加えられたような淋しい表情を見せた。
「ママは死んだ人の名ばかりあげて、快くなった人のことは言わないのね。今のうちなら百パーセント大丈夫だというのに手術を嫌い、手の施しようがないと言われたら、それこそおしまいだわ」
 母は側の椅子に腰掛けて考え込んだ。私は炊事場の仕事を続けていた。自分ながら驚くほどの勇気がでて、この分なら母に感知される心配もない。安心したが、母の気持ちは鎮まらないらしかった。
 母は財布から常備薬を記したカルテを開き、医師の電話番号を繰った。医師と私の話に食い違いの生じることを恐れ...
会員限定

有料会員限定コンテンツ

この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。

認証情報を確認中...

有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。

PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。

Loading...