小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=90
母は手術によって死亡した知人の誰彼の名をあげ、自分もその中に加えられたような淋しい表情を見せた。
「ママは死んだ人の名ばかりあげて、快くなった人のことは言わないのね。今のうちなら百パーセント大丈夫だというのに手術を嫌い、手の施しようがないと言われたら、それこそおしまいだわ」
母は側の椅子に腰掛けて考え込んだ。私は炊事場の仕事を続けていた。自分ながら驚くほどの勇気がでて、この分なら母に感知される心配もない。安心したが、母の気持ちは鎮まらないらしかった。
母は財布から常備薬を記したカルテを開き、医師の電話番号を繰った。医師と私の話に食い違いの生じることを恐れ...
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