小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=132
その日田守は、終日、悶々として仕事も手につかなかった。夕刻、再び家に帰る気がしなかった。ふと思いついて、同僚の日浦良夫を訪ねることにした。パトロンの篠崎と同じくらい彼も縁談を勧め、結婚を喜んでくれた男であった。
「オイ、今夜《青柳》に行こうじゃないか」
田守は出し抜けに言った。
「しばらく見えなかったが、その後うまくやってるんじゃないか」
「もう愚痴をこぼすのもあほらしい。俺には女難が付きまとっている」
「そんなこと言って、《青柳》なぞに行くと、また女難だぞ」
《青柳》というのは、サンパウロ屈指の料亭であった。常時、五〇名ちかい女給を...
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