南米と中国の経済関係深化=米国の無関心が追い風に

トランプ政権は中国の影響力を警戒する一方で、南米には関心を示さないのに対し、習近平国家主席は着実に南米での存在感を高めている。南米諸国では中国との経済連携が一層強化され、信頼も急速に高まっていると、8日付の英誌「エコノミスト」(1)(2)が報じた。
中国政府は12〜13日の日程で、ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)との閣僚級フォーラムを開催中だ。この会議にはルーラ大統領、コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領、チリのガブリエル・ボリッチ大統領らが出席。米国当局はこの動きに懸念を示し、米国防長官ピート・ヘグセス氏は中国が西半球で「軍事的優位の獲得と不公正な経済的利益を狙っている」と警戒を示した。
同誌が委託した世論調査では、南米各国での米国の人気は依然として高いものの、中国への信頼感は急速に上昇している。中国は「より敬意を払う超大国」と見なされ、貿易相手としても「最も信頼できる国」と評価される。トランプ氏が米国の貿易赤字を糾弾する一方で、中国は南米との赤字を拡大させながら銅、リチウム、大豆を旺盛に輸入している。
2013年、米国は南米最大の貿易相手で、貿易額は2800億ドルに上ったが、23年には25%減少。一方で、中国との貿易は43%増加し、3040億ドルに達した。コロンビアとエクアドルを除くほとんどの国で、中国との貿易が米国を上回っている。ブラジルの大豆輸出はこの10年で約2倍、チリの銅鉱石輸出も3倍近くに増加し、中国の活発な資源需要が地域経済を支えている。
輸入面でも中国依存が進み、電気自動車や太陽光パネルなど高付加価値品も含まれる。中国企業は2000年以降、南米に1680億ドル以上を投資し、鉱業や農業に加え、通信、再生可能エネルギー、電力など多岐にわたる。
中国は融資を通じた影響力の行使にも取り組んできた。05年以降、ベネズエラ、ブラジル、エクアドル、アルゼンチンに対して計1110億ドルを融資しており、返済義務は現在も残る。最も親米的とされるアルゼンチンのミレイ大統領も、5億ドル規模の通貨スワップ協定を中国と更新しており、経済的な現実が外交方針に影響している実態が浮かび上がる。
ミレイ大統領すら「国民の福祉のために中国との経済関係を深める必要がある」と語っており、世論調査でも56%のアルゼンチン国民がこの方針を支持している。
世論調査ではブラジルとコロンビアで7割、ベネズエラで6割の回答者が「中国の人気が上昇」と回答。米国よりも中国の方が自国を「尊重している」との認識が広がっている。
中国の存在感は軍事・安全保障面でも拡大。西半球に中国の軍事基地はないが、中国の出資により建設された商業用港湾、特にペルーのチャンカイにおける巨大港湾施設が、中国海軍により軍事利用されることを米国は懸念している。チリ北部の宇宙観測所計画も米国の圧力で凍結された。
米国が南米諸国の中国離れを促すには、制裁や関税だけでなく、積極的な経済支援や関与が不可欠だが、現政権にはその意欲が乏しく、米国国際開発庁(USAID)の縮小なども影響力低下に拍車をかけている。