ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(20)
このように神が造られた大自然の法則は全く完璧で、もし人間を含めた生き物たちが、その法則に心から従うのなら、大自然は必ず大きな恵を与えてくれるに違いありません。
牧場の歩き慣れた細い道を通って、あの鷹の棲む山々の麓に着く頃には、お腹がすっかりすいていますので、並木道を引き返すことになります。
羊の群れと一緒になることもあれば、子豚たちとかけっこする時もあります。そうこうしていると、前の方から眠い目をこすりこすり愛馬に跨った牧童たちや牛飼いのおじさん、そして牛乳屋さんに出会います。
時には、鉄砲を担いだ狩人や、夜の間川でピラニアを釣っていた人たちにも会います。
今朝も元気よく散歩しているジャポネーザを見ると、皆は
「お早う!ジャポネーザ!ご機嫌いかが?今日も、神様のご加護がありますように」
と言って、微笑みながら通り過ぎて行きます。
五、子どもたち
ある日、生徒たちが教室に慌てて入って来て叫びました。
「先生、今そこで黒い犬がジョンじいさんのピントを噛みました!」
「えっ!それでジョン爺さん、どうしてるの?」
すると、ロドリゴが深刻な顔で
「ジョン爺さんは怒っています。ピントは血だらけで、ぐったりしています。もう駄目です。救いようがありません。」
と言ってまた付け足しました。
「黒い犬の飼い主に弁償してもらうと言っています。」
「だけど、どうやって弁償するのかしら?」と、私が怪訝な顔でつぶやきますと、ラモンが答えました。
「市場に行って同じ大きさの物を返せばいいのです」「・・・・?」
そこで、私は自分がとんでもない勘違いをしていたことに気が付いて、その可笑しさに耐えられず座り込んで笑い転げてしまいました。
すると子どもたちも、ジャポネーザのピントの狂った理解が分かったらしく、これまたのたうちまわって笑いこけ勉強どころではなくなってしまいました。
じつは、ピントの解釈に問題があったのです、子どもたちのピントとは、ひよこのことで、私のピントはおちんちんのことで、てっきりジョン爺さんのあのところが、犬に噛まれて血だらけになったと勝手に思い込んでしまったのです。
みんなであまり笑ったので、お腹は空くし喉は乾くしでおやつを食べて、グアラナ(ガラナ=ブラジルの飲料水)を飲むことになりました。