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ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(24)

2025年8月7日

 さあそうすると今度は、ジョンジニョが言いました。

 「昨日、テレビで日本のお金を見たよ。髪を馬の尻尾(ポニーテール)に結った女の絵があるお札だった」

 私はびっくりして

 「えっ?お札に女の絵?すると、また新札が出たのね。五万円かしら?」

 でも、そうではなく、それは一万円札でした。

 ポニーテールの女は、実は女ではなく聖徳太子。地球儀になったままのスイカをサムエルの手にのせて、ジャポネーザを運んで来た船、「あるぜんちな丸」の航路をなぞって見せながら、

 「ブラジルに辿り着くまでに45日間もかかったのよ」

 それを聞いた子どもたちは、大きな溜息をついて、日本という国がどんなに遠いところにあるのかを、改めて知ったようでしたが、そんなに遠い国から独りでやって来たジャポネーザの勇気にも大いに感心したようで、

 「困ったことがあったら、遠慮しないで言ってくれ。どんなことでもして上げるから。いつでもいいから、ワルイコーと呼んでくれ」と、涙が出るようなことを言ってくれたのです。それから、子どもたちは我が家の窓の下を通る時、「ワルイコー」

 と、私を呼ぶようになり、私が家の中から

 「ハーイ」

 と応えるようになりました。

七、私のロバたち

 イエス・キリストを背に乗せた唯一の動物、それはロバです。そのロバの背中に大きく流れる十字架の模様は幼いイエス様のおしっこの跡だと言われ、ブラジルの北東の地方で、ロバは神聖な動物として愛されています。

 人々は、この尊い模様が消えることを恐れて決してロバの背中を洗い流しません。

 ジャポネーザはロバが大好きで、ロバがやって来ると、何も彼も放り出して、別人のような優しい声でおしゃべりをしながら、餌を与え水を飲ませ、床屋さんよろしくブラシを掛け、至れり尽くせりのもてなしをしますから、犬の坊やも猫のトントンちゃんも、そして人間の子どもたちも一緒になって、面白いように嫉妬するのです。

 ロバの中でも特別可愛がっていた私のちいちゃんは、いつも教室の入口のところで、授業が終わるのを待ちかねていました。

 授業が終われば、ジャポネーザが自分を家に入れてくれて、パンをどっさり食べさせてくれるのをちゃんと知っていたからです。


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