ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(28)
頭を下げたまま顔を寄せ合って、輪を作り、捕獲人に大きなお尻を向けて、さあ!捕まえてみろ!と言わんばかり。
投げ縄は、ロバたちの鬣を撫でるばかりで、いっこうに効果はなし。
ロバたちは、時々顔をしっかりとくっつけ合って、天を仰いで見せます。
丁度、ロバたちの鼻面が富士山の天辺みたいになって、その天辺に投げ縄が飛んできます。するとロバ達は、みんなで息を揃えてまた頭を下げ、くすくすと笑うのです。頭に来た捕獲人たちが、それではとうっかりとロバに近づこうものなら、何本もの後ろ足が飛んで、アッパーカットをくらうだけ。
捕獲人がふうちゃんの車座防備隊形にさんざんてこずっていると、知らせを受けてやって来たロバの飼い主たちが、自分のロバを連れ戻そうと、捕獲人との喧嘩が始まります。
そこで物陰に隠れて一部始終を見ていたジャポネーザが現れ、
「ふうちゃん!おいでー!」いち、に、いち、に、と掛け声をかけて走り始めます。ふうちゃんは、待ってましたとばかりばかりに私の跡についてかけてきます。女親分のふうちゃんが走り出せば、ほかのロバたちは、ただその後ろに従うだけ。
こうして、全員がジャポネーザの家に無事到着!水をのみながら、飼い主が迎えに来るのを待つのでした。
前に書いたあの男ロバ、むらさき君との愛の結晶は、ふうちゃんのお腹の中で大分大きくなっていました。お巡りさんのロバ、まあちゃんはまるで影のようにふうちゃんから離れないでいます。
まあちゃんは、生まれて来る赤ちゃんの姉になるつもりなのでしょう。
私はもうこの時から、赤ちゃんの名前はチアキに決めていました。
私は、毎晩のようにふうちゃんのお腹をさすりながら、チアキ、チアキと語りかけ、ねんねこしゃっしゃりま~せと歌っていました。
まるで、自分が赤ちゃんを産むような豊な気分で~。
それから、大分たって、私が都合四回目の引っ越しをした頃は、ちょうどふうちゃんの臨月でした。
美しい満月の夜が明けた時、窓から私を呼ぶ大声で目をさましました。
窓を開けて見ると、ジョン爺さんの息子ジランです。
「テレジーニャ。ふうちゃんの赤ちゃんが産まれたよ。テレジーニャのロバだよ。」
そうです。
ジョン爺さんは、もう赤ちゃんロバの所有者をこのジャポネーザに決めていたのです。
カメラをもってかけつけますと、ふうちゃんがいなないて、私を迎えてくれました。ふうちゃんは、目を細めてわが子を見守っていました。