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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(326)

2026年1月23日


北パラナの宮本グループと丸紅のイグアスーの場合は。──

ここでは、多数の招待客を招いての、工場のイナグラソン当日、工場の機械が起動しないという失態が発生していた。

筆者もサンパウロから出かけていたが、招待客は待たされっぱなしとなっていた。事務所へ行ってみると、宮本邦弘ら経営者たちが、会議室で押し黙ったまま、時を過ごしていた。

機械が稼働しなかったのは、予算を切り詰めようとして、不適切なメーカーに発注したためであった。

結局、後に別のメーカーに発注し直したという。

さらに、この工場では火災も起こっている。

対策を講じるための相次ぐ増資で、宮本側の力が尽き、経営権は丸紅に移った。

それに関連しての、サンパウロ本社での取材の席上、筆者の目の前で宮本が、何かの書類を、丸紅側の役員に叩きつけるという一幕もあった。

詳しいことを訊くことはできなかったが、両者の関係が険悪化していることは明瞭だった。

山本山とコチアの製茶事業は、組合員が生産する茶の工場への納入価格の問題で、交渉が難航した。

その時、組合員側が山本山を非難する記事が邦字新聞に出た。山本山側が、それを怒って、交渉そのものを打ち切った。

コチアの出資比率も、増資に応じなかったために縮小して行った。

田中義数グループのダンボール生産のパペロッキは、コロニア側の人間と日本からの派遣員の会話が成立しなかった。「互いに日本語で話していても、意思が通ぜず激しい口論になった」という。

派遣員は、激怒して引き上げてしまった。

同社は後に非日系の同業者に身売りした。

丸紅と南パラナの農業者たちの提携事業も、頓挫した。

営農成績の不振が多く出たこともあるが、丸紅側と農業者の関係が難航した。会議を開いても紛糾、途中で、頭を冷やすために中断…ということの繰り返しだったという。

JETROの「中小企業同士の合弁」も、軒並みご破算になった。これも、日本側とコロニア側の歩調が合わなかった。

以上の様な次第で、日本人同士でも、こうである。日本人とブラジル人の合弁の場合、どうなったかは、おおよそ見当がつく。

筆者は、合弁というものが如何に難しいかを、痛感したものである。

なお、東山銀行の事例も参考までに付記しておく。

一九七三年、東山銀行は三菱銀行と改称された。

東山は、戦後、コロニアから多数の株主を募った。が、幹部は三菱から派遣されてきていた。資本金も三菱のそれが入っており、比率も高まっていた。

ブラジル・ブームの中で、進出企業に客層を広げるには「三菱銀行」の方がよいということもあったろう。改称後、コロニアの株主は次第に離れて行った。

七〇年代末には、銀行側は、その株主の多くと連絡がとれなくなっていた。住所を変更した時、届けなかったのである。株主であることを忘れてしまったらしい。倒産した会社の書類棚から東山銀行の株券が出てきた…という話もある。

進出企業とコロニアとの間には、前々から、気分的な距離があった。この距離を埋めようとする努力は、一部ではあった。東山の総帥であった山本喜誉司などは、そのために尽力した。が、この七〇年代後半からの異常事態の中で、距離は一層、広まった。


ケイロウ旋風


コチア産組でも、ただならぬ事態が起きていた。

一九七五年、新たに就任した下元慶郎専務により、突如、経営の大合理化が断行され始めたのである。

この人は、普通「ケイロウ」と呼ばれた。一九三〇年のブラジル生まれで、長くコチアの専務を務め、本稿でも度々登場した下元健吉の次男である。

父親の死後のことになるが、一九五九年、コチアの職員となり、数年でグループ会社CODAIの役員、次いでやはりグループ会社イルパーザ(搾油、パラナ州)社長、七三年コチア産組理事、そして四十四歳で同専務理事…と駆け上がった。

この人事の根回しをしたのが、それまで副会長だった谷垣皓巳である。

しかし、これには、

「組合の専務職まで世襲か!」

と、しらける声が内外に多かった。

そのケイロウの大合理化は、すさまじかった。

組合員と従業員を大量に整理(除名、解雇)、組合の組合員に対する延滞債権を厳しく回収、新規の投資を中止、特に外部との合弁計画に「待った!」をかけ、かたっぱしから潰して行ったのである。

まさに旋風とも呼ぶべき荒れようだった。

彼の父健吉の新社会建設事業など、この時期には、何処かに吹っ飛んでしまっていた。

十数年後の一九九二年、ケイロウは、筆者の取材を受け、往事を振り返り、

「(自分の殊遇には)親の七光りということもあったでしょう」

と認めるべき所は認めた上で、大合理化の経緯を語った。(つづく)


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