小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=17
深さ十五メートルの井戸は、綱で巻き取り式になっており、つるべは石油の空き缶がついている。缶に水が入ると、把手を廻し綱を巻き取り棒に絡ませて引き上げるのである。水は新鮮で、生き物のように揺れながら上がってくる。それを二つのバケツに移し、一つは屋外の洗面用に備え、他は炊事用として家の中に持ちこむ。
炊事場では、火にかけておいた薬缶が沸騰していた。食卓の角に取り付けた小型のコーヒー挽き機に豆をいれ、手廻しで粉末にする。それを小さな布袋に移し、上から熱湯をかけて濾すのだ。律子はその一杯を持って、入植早々、アメーバで寝込んでいる母親の枕もとへ運んだ。
「持ってこんかて...
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