小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=93
母は私を孕もった時、それはひどい悪阻で医師をてこずらせ、かろうじて妊娠中絶を免れたのだそうだ。その時、母は初めて肋膜を患ったことを父に告げ、父をひどく落膽させた。事前に知っていたら妊娠調節の方法もあったろうに、と母をなじり、母はそういう告白は結婚の妨げになるだけだったから、と二人は一晩暗い気持ちで過した。母が父に病名を打ち明けられなかったように、父も家族に知らせなかった。その頃肋膜炎は肺結核の一歩手前として伝染を惧れられ、そういう病人は隔離して暮らすほど危険視されていた。
病弱な母が、私を何とか産んでくれたのは医学のたまものである。出産に母の体力がもちきれず、...
有料会員限定コンテンツ
この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。
認証情報を確認中...
有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。
PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。