マスクのモラエス批判続く=議会はネット規制で擁護へ=裏にビジネス利権との憶測も

【既報関連】米国の国際的企業家イーロン・マスク氏が最高裁のアレッシャンドレ・デ・モラエス判事への攻撃を続けることで、上院議長がネット関連の法規制を急ぐ意向を表明した。また、マスク氏のブラジル最高裁攻撃の背後にはブラジルへのビジネス展開があるとの指摘も上がり始めている。8日付G1サイトなど(1)(2)(3)(4)(5)(6)が報じている。
マスク氏のモラエス判事への攻撃は6日に始まったが、8日もXでの投稿で同判事を「独裁者」と呼ぶなど、攻撃は激化。9日には、モラエス判事が2017年に飛行機事故で死亡したテオリ・ザヴァスキ判事の後任判事であることを当時のテメル政権の陰謀だと英語で主張する投稿者に対して、「ますます疑惑が深まった」と反応するなどした。
これらの行為は国際的にも注目され始めているが、米国のブルームバーグやイギリスのファイナンシャル・タイムスなどは、「マスク氏の行為はブラジルのネットの法規制を強める方向を後押ししかねないものだ」との見解を示している。
ロドリゴ・パシェコ上院議長(社会民主党・PSD)も8日、「これは検閲ではなく、規制の問題」とし、SNSの規制は「避けられないもの」で「基本的なもの」と強調することでモラエス判事を擁護した。また、下院で審議が止まっているインターネット上での表現の規制に関する法案審議を促進させる必要にも言及した。
また、このネット法案の下院での報告官のオルランド・シルヴァ下議(ブラジル共産党・PCdoB)も、アルトゥール・リラ議長(進歩党・PP)に対し、ネット法案を再び議題に上げるよう要請するとの意向を表明している。
同法案はボルソナロ前大統領支持者をはじめとした保守派からの反対が強く、保守派寄りのリラ議長が二の足を踏む状態が続いていた。
また、マスク氏の相次ぐ行為に対し、大統領府通信局のパウロ・ピメンタ長官は、マスク氏が手がける通信衛星「スターリンク」の契約見直しもあり得ることを示唆している。
また、ルーラ大統領も、名前は伏せながらも、ロケットを飛ばしたがる億万長者は、環境保護のためにその金を使うべきとの言葉で、マスク氏を批判した。
上院の治安委員会は、虚報を流したりして封鎖されたアカウントの解除などを示唆したマスク氏の言動を問題視し、同氏を召喚する意向も表明している。
他方、これまで中国やサウジアラビアの政府の言論弾圧には言及してこなかったマスク氏が伯国には言及することに疑問を呈すメディアも出てきている。インターセプト・ブラジルなど複数のメディアは、その背後に「ビジネス上の利権があるのでは」と見ている。
その例としてあげられているのがリチウムだ。リチウムはマスク氏のテスラ社が展開する電気自動車の主要原料の一つだが、その生産大手であるヴァーレ社の利権を狙おうとの意向があるのではないかとの推論を立てている。
マスク氏にとって、ルーラ政権はテスラ社のライバルである中国のBYDを斡旋している存在だ。また、ヴァーレはミナス・ジェライス州にリチウムの生産工場と鉱山を持っており、それは26年の大統領選出馬が予想される保守派知事のロメウ・ゼマ氏のミナス・ジェライス州が持っている。
米国は今年、大統領選を迎えるが、もしこの選挙でドナルド・トランプ氏が勝利すれば追い風が吹き、26年のブラジル大統領選に政権交代の期待もかかる。伯国の保守派はボルソナロ氏が親マスク派で知られており、ボルソナロ氏の出馬のいかんにかかわらず、ボルソナロ派の候補はマスク氏には有利でゼマ氏の可能性もあるとインターセプト・ブラジルなどは推測している。
そのためには、ボルソナロ氏に26年の出馬禁止の選挙高裁長官として決定を下したモラエス判事は目の上のこぶの存在だ。