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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=146

2024年5月30日

 出来あがった食物を運ぶには、去る日、ダニエルから渡された母の形見の弁当箱がある。四段重ねのもので、両側に一つずつ重ねるための案内がついていて、持ち運びに便利だ。それを手にすると、いま母は、どうしているのだろう、と脳裏をかすめるが、田守は直ぐにそれを打ち消した。
 田守は、つばの広い麦藁帽子を目深に被って、半ズボンに靴という恰好で弁当を片手に山小屋をでた。二人の作業場までは約一キロある。照る日は暑く、道を行くだけで汗びっしょりになった。いや、道などという代物ではない。深い草を押し分け、踏み拉いてイグル川の方向に進むだけだ。
 ジョンは上半身裸で鶴嘴を岩と樹木の間...

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