《記者コラム》過激主張よりしたたかで怖い=「ラヴァ・ジャット式」政治手法

20日に行われたドナルド・トランプ氏の米国大統領就任式が世界的に物議を醸したが、コラム子も「このやり方は失敗では」と思った。トランプ氏の演説内容や、ナチス式敬礼ポーズをとって国際的な顰蹙を買ったイーロン・マスク氏の道義的な問題といった点ではなく、彼らがとった政治的な「作戦」。これがあまりうまくないと感じたのだ。
トランプ氏としては、自らが以前より強くなって大統領に復帰したことを印象付けるため、極右主義者たちが喜ぶことも計算して、LGBTや移民、有色人種に対して差別的とも取れる言動を行ったのだろう。マスク氏の敬礼も、本人がナチスを実際に信奉しているかどうかは別にして、マッチョな強さと左派に対する刺激を意識したものと思われる。
だが、彼らがこれをやってしまったがために、早速世界の至る所で強い反発が上がってしまっている。それこそ、彼らが日頃から主張している「言論の自由」が彼らの主張と逆の側で活性化してしまった。とりわけ「ジェンダーは2つしかない」と言ってLGBTを激怒させたこと。現在のLGBTの国際的な影響力の強さを見るに、これは大きな代償を払うことになるだろう。
もっともトランプ氏のこのやり方はコラム子が最も恐れていたやり方ではない。コラム子としては2018年までブラジルで通用した「ラヴァ・ジャット式アプローチ」。これをやられた方がはるかに怖かった。
それはどういうことか。つまり、「追い詰める側の正体をあまり強く見せずに相手を攻撃し、世間からいつの間にか支持を受ける」というやり方だ。2014年に本格始動した汚職捜査「ラヴァ・ジャット作戦」では、当時の担当判事セルジオ・モロ氏が極右主義者であることは世間にほとんど知られておらず、ボルソナロ氏も「不正をしないクリーンな政治家」とのイメージを世間に売り込んでいた。2人の行動はブラジル流に言えば「テン・ラゾン(一理ある)」とばかりに功を奏し、支持を得ることに成功した。
トランプ氏もこの「ラヴァ・ジャット式アプローチ」ができた気がするのだ。トランプ氏は前4年間、あまり公の場に姿を見せず、世間ではバイデン政権の良くないところに目が集まっていた。大統領選挙では「そういえばトランプ政権も思ったほどひどくなかったじゃないか」との心理が働き、票が動いたところがあるように思える。
トランプ氏も過激な主張を抑え、ジワジワとリベラル左派の弱点を突く作戦をとった方が支持を集められたのではないだろうか。今のやり方では味方に付いた人たちまでも突き離しかねない。加えてトランプ氏は78歳の高齢だ。このあまりにもハイペースなやり方が招くであろう心身への疲労やストレス、さらには自身へと返ってくる嫌悪の大きさに耐えることができるのか、気になるところだ。(陽)